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前の話と2話投稿してます。
リーリと話をしていたら、バロワ班長が研究室に戻ってきた。
「ただいま〜、ローゼス生きてる?1班が改良案、チェックしてくれるって〜」
やはり忙しそうだ。あまり長居しては邪魔になるので、そろそろお暇しようかな。
「あ、そうだ。リーリ、すぐ終わるから、少し触れてもいい?」
「いいんですか?ありがとうございます!」
少しでも力になりたくて、体の力を抜いたリーリに疲労回復の術式をかける。
「……はい、おしまい。あんまり強いのは後で負担が返ってくるから、軽めのものでごめんね?」
「そんな! むしろ気にかけてくださりありがとうございま……」
話していたら、リーリが急にぴたりと止まった。
「リーリ?」
「…………強すぎると、よくない?」
「あー、曲線か。ありそうだね」
バロワ班長が、リーリの言葉に反応する。
「そっか、だからリュート様はもっと時系列で細かくデータ取れって……私、ちょっと行ってきます! カレンさん、ありがとうございました!!」
「え、リーリ!?」
リーリが駆けていくのを見て慌ててついて行こうとするが、廊下に出たらもう姿は見えなかった。
「あはは、若いっていいねぇ。大丈夫だよサンビタリアさん、気にせず寮に戻っちゃいな」
バロワ班長は私にそう声をかけると、
「さーて、俺も若いのに任せてないで仕事するか〜」
なんて言いながら、自分の机に戻っていった。
……皆、すごいな。自分のやるべきことをわかってて、迷わず進んでる。
改めて、技術開発部に勤める人たちが、どれだけすごいのかを実感した。
◇
「あの、リュート様。何かほかにもお仕事ありませんか?」
翌朝、リュート様にお茶を出しながらお伺いをたてる。
あの会議以降、担当班から人員を貸し出したリュート様ご自身も、1班と2班、10班が一堂に会する大実験場に足繁く通っている。
1班と2班は、急な差し込み業務が入ったようなものなのでかなり忙しくなった。会議直後から一週間、ほぼ全員泊まり込み作業になっているらしく、週次報告会すら中止された。
他の班もその分を補うように動いており、全体的に慌ただしい。
私は追加の触媒素材の調達手配や経理手続き申請程度しか手伝えず、残りはいつもの仕事のみ。楽してしまっているのでなんだか申し訳ない。
リーリも更に頑張っているようだし、私もなにか皆の役に立ちたい。
「通常業務をしっかりこなしてくれれば、本当にそれで充分だよ」
リュート様はお茶を一口飲んで、1班から上がってきた分析資料を読みながら答える。
食い下がりたかったが、明らかに集中して資料を読み込んでいるリュート様をお邪魔しては本末転倒なので止めた。
「承知、しました」
……とりあえず自習をしよう。
最終報告は部長補佐官の仕事だと思うけど、月次報告で1、2班の該当分を担当する可能性もあるし。
そう言い聞かせて時系列に整理した資料を頭から読み直そうとしたら、顧問室の扉が勢いよく開いた。
そのまま転がり込んできたリーリが私に抱き着くようにして話し始める。
「カレンさんありがとうございました!性能ちょっと出ました~~!!!」
「え?」
「ローゼス、ちょうどよかった」
リュート様がさっきまで読んでいた分析資料をリーリに渡す。
「1班でも分析結果が出た。変質魔力の強さもしくは浸透の時間経過によって、どちらも水中の既存変質領域と干渉して位相がずれ続けるって」
「やっぱり!!!」
「最適出力域が存在するって仮定してよさそう。分析結果とも矛盾しないし、いままでの事象も自然に説明できる」
「そっちの方向で調整してみます!」
分析結果によって今後の方針が決まったのは分かったが、さっきのリーリのは一体……?
話が見えなくて戸惑っていると、リーリが内緒話をするかのように話しかけてきた。
「カレンさんが言ってくださったやつですよ、強すぎるとかえって良くないって」
「あれは回復術式の話よ……?」
リーリはくすくすと笑いながら、私の腕にぎゅっとくっつく。
「それでいいんです!ありがとうございました。あの時、煮詰まってたんで、本当に助かりました」
「役に立てたなら良かったけど……私じゃなくて、何気ない一言を拾って活かせるリーリがすごいのよ」
2人でくすくす笑っていたら、リュート様の声が飛んでくる。
「ローゼス、方針が見えたからって油断しない。倒れても叩き起こすから頑張って」
「あははっ!はーい、めっちゃ頑張ります!!」
手に、ピクリと力が入る。
リュート様は慣れた技術部員相手だと、案外砕けた態度になるタイプだ。
容赦ない物言いだけど、これくらいの方が皆接しやすいらしい。班長達ともよく冗談か本気かわからない言葉が飛び交っている。
……私には、あまりそういう物言いはなさらない。
当たり前だ。リーリ達技術部員は同じ研究者仲間だけど、補佐官の私は違う。
実力でここに居る彼らと、頭を下げて居させてもらっている私が同じはずがない。
さっきも通常業務をまずはこなせと言われたばかりの私は、リュート様にとって戦力ですらない。
分かっているはずなのに、指先に力がこもる。
「あ、そうだ。神職系術式から出力調整用の記述を見つけたんで転用したんですけどうまくいかなくて。1班に相談してもいいですか?」
「まずはバロワにちゃんと見せた?あの人そういうの強いでしょ」
二人は楽しそうに、生き生きと会話を続けている。
――リーリと話すときのリュート様は、いつも楽しそう。
私相手にも、いつかこうやってお話してくださるかな。
なんて畏れ多いことをふと思う。
大好きな人たちが楽しそうにしているのは喜ばしいことのはずなのに、すこしだけ胸が苦しくなる。
どうしてまだ、こんな想いが胸中にあるんだろう。嫌だなぁ。
指先にこもった力をなんとか抜き、未だダラダラと私の中に居座る想いを、丁寧に丁寧にすりつぶし直して二人を見る。
――これからも、傍で、皆の、リュート様の楽しそうな姿が見たい。
早く皆に追いつかなくちゃ。全部、全部頑張っているつもりなのに、全然追いつけない。
私にも、出来ることがあるならいいのに。




