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8-2

ゆっくり話が聞きたいらしい聖女サマのために、ゼフトから部長室の応接スペースを借りる。

第十研究室から部長室までの道すがらも、聖女サマからの質問攻撃が続いた。


「リュート様。貴方がカレンの……業務?をご存知でいらっしゃるの?」

本当に、色々と貴族令嬢らしい貴族令嬢だな、と思う。


「彼女は僕の補佐官ですので、互いの業務を把握しております」

「まあ!そうでしたの」

白々しい。ゼフトから借りた鍵で扉を開け、部長室に入るとすぐにクルーゼ嬢に向き合った。


「……さっきから何が言いたいわけ?君、僕のこと知ってるでしょ」

そもそもサンビタリアを僕の補佐官に推薦したのは、サンビタリア家当主である父親と彼女、クルーゼ・サンビタリアのはずだ。

あの子が僕の補佐官であることも、僕自身のことも知らないはずはない。


僕が態度を変えたからか、先ほどまで貴族令嬢らしく振舞っていたクルーゼ嬢が、腹芸を止める。

「……こんなに若い男だと知っていたら、あの子を紹介なんてしなかったわよ。あなた、カレンに何かしてないでしょうね?」

何かしたそうなのは君の妹のほうだよ。と言いたいのを寸でのところで堪えた。


「そんな心配するなら、あとで仕事ぶり見せてもらえば」

「それが出来れば苦労はしないわよ!」

「君ら、どうしてそう姉妹で遠慮しあってるわけ?」

「うるさいわね、こっちにも事情があるのよ」

「ああそう。事情とやらが解決したらついでに魔力コントロールも教えてもらいなよ、君の流す魔力、ムラがありすぎて計測にかなり時間かかった」


「……ほんとう?」

続いていた応酬が、急に止まる。

見ればクルーゼ嬢は呆気にとられたような顔をしていた。


「カレンの方が、わたくしよりすごい?」

一瞬迷うが、彼女の瞳の奥に期待の色が見えた気がしたので正直に答える。


「君は魔力質も特異だし、魔力量は人外級。出力と濃度も凄まじくて、正直、歴史に残るレベルだよ。けど、魔力コントロールや精度……魔術士としての技能なら僕の補佐官の方が優れてる」

「そう……そうなのね!」

ぱぁっと明るい笑顔を浮かべるクルーゼ嬢。

その顔が僕の補佐官そっくりで、やっぱり姉妹なんだなと実感した。


「すごい!そんな事言われたの初めてよ!!……ねえ、カレンはどうして私たちのような攻撃魔術は使えないの?」

「それは、そもそも出力スケールが違うだけの話。あの子は確かに高出力の攻撃魔術は使えないけど、君だって治癒魔術みたいな細かい調整が要る魔術、使えないでしょ?」


クルーゼ嬢は少し考え、口を開く。

「……水盆で小さなティーカップに水を入れようとすると、零れてうまく入らない。みたいな話で合ってる?」

「そう。逆にティーポットで火を消す勢いの水はかけられない」


体の力が解けたように、クルーゼ嬢はソファに座りこんだ。

「うちの一族は、水盆しかいなかったのねぇ……」

「そういうことだろうね、なまじっか強いせいで支援系術式への適性理解も浅そうだし」

「そう、そうなの……ふふっ」


頬を赤らめ笑うクルーゼ嬢は、心の底から湧き上がる喜びを噛みしめているようだった。

「……紹介して正解だったわ。ここにはカレンの居場所、ちゃんとあるのね」

「君……」

「わたくしは、多分これからもカレンを表立って守れない」


瑠璃色の瞳が、まっすぐに僕を見る。

「……カレンをよろしくね」



お姉様は今頃どうされているかしら……。


そんなことを考えながら仕事をする。

週次報告会で、リュート様からの確認点を班長達に伝える。議論を聞き、メモを取り、最終的な返答を記録する。

顧問室に戻ってきて議事録を打ち起こす。昨日提出分の日報をとりまとめて綴じる。3班に新しく打診が来た依頼案件についての周辺資料を集める。


共用書架から戻ろうと廊下を歩いていると、部長室からリュート様とお姉様が出てくるのが見えて、心臓が跳ねた。

慌てて角に身を隠す。


お姉様が嬉しそうな顔で、リュート様に微笑む。

白磁のような美しい肌。

頬は薔薇色に染まり、とても美しい。


「お話しできてよかったわ、ありがとう」

「こちらこそ」

リュート様はこちらに背を向けていらしたが、声も雰囲気も、とても柔らかかった。


お二人とも、とても見目麗しいからだろうか。それとも、本当に才能のあるお二人だからだろうか……並んでいる姿が、まるで絵画のように美しかった。


――キミの気持ちには応えられない。部下として扱う。……それでいい?――


何故か、以前リュート様に言われた言葉が頭をよぎった。


……リュート様の隣は、どんな方が射止めるんだろう。

もしクルーゼお姉様だったら、リュート様とずっと関わりあいになれるな、なんて馬鹿なことを考えてしまった。

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