幕間(7話後 ルーク視点)
カレンお姉様を、また助けられなかった。
いつも皆から責められ、ひどい言葉を投げかけられるカレンお姉様。
……本当のカレンお姉様は、鉄屑なんかじゃないのに。
絵本を読んでくれた、たくさん遊んでくれた。
僕が自分の魔力で腕を焼いて、死にかけたとき、一晩中つきっきりで回復術式をかけてくれた。
大好きなカレンお姉様。
でもクルーゼお姉様が言うんだ、僕らが表立ってカレンお姉様を守ると、カレンお姉様が不幸になるって。
だから一生懸命我慢してた、してたのに。
会場にいるカレンお姉様が、髪を乱され、サンビタリアの誰かに詰られている姿を見たとき、頭が真っ白になった。
しまったと思ったときにはもう遅く、会場の防御術式を破壊してしまっていた。
それなのに……被害は、出なかった。
「いやぁー、君は素晴らしいな!まさか高出力過ぎて防御術式を一瞬機能不全に陥らせるとは!さすがサンビタリア家の嫡男だ!」
遠くから見ていた先輩方はそう言うけど、それは違う。
あの場において僕が無力だったのは、僕が一番よく知っている。
審判役を務めていた先輩に声をかける。
「あの……さっきの方は……?」
あれは全て、姉の傍にいた赤茶色の髪の男がやったことだ。
「……リュート・トゥルペ。名前くらいは知っているだろう」
名前を聞いて驚く。あれは姉が補佐官を勤めている、まさにその人だったらしい。
彼が開発に関わったらしい文導機は普段から使っているし、論文だって読んだことがある。
「……存じていますが……あんなに若い方、だったんですね」
「確か二十五くらいのはずだ。あの化け物、今年も来てたか……」
忌々しそうに言う先輩に首をかしげると、嫌そうな顔で教えてくれた。
「あの男の術式解析力と魔力操作の精密さは異常だよ……。一年かけて開発した新技を、『ああ、こういう仕組みなんだ』とか言って目の前で軽々と再現される気持ちがわかるか?」
先ほど僕の雷がアッサリと無力化されたことからして、嘘ではないのだろう。
ゾッとする。本当にそんな人間が居ていいのか……?
「本音を言うと出禁にしてもらいたいが、今年は助かったな……悔しいけど」
悔しい。先輩の言葉が妙にすとんと胸に落ちた。
……うん、僕が今抱いているこの気持ちは「悔しい」だ、いろんな意味で。
カレンお姉様を助けられなかったのも。
術式を簡単に無力化されたのも。
代わりにあの男がカレンお姉様を助けたのも、全部悔しい。
先ほどの光景を胸に、決意を新たにする。
いつか、成長してカレンお姉様を、クルーゼお姉様を僕が助けるんだ。




