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新年。
新しい年のお祝いと一年の恵みを祈り、選定された種や初物、工芸品など様々なものが太陽神と月神に捧げられる。
そのうちの一つに、魔術競技会が存在する。
「――そこまで!勝者……」
審判の声が高らかに響く。会場は騒めき、真冬にも関わらず熱気に包まれている。
魔術競技会は、いわゆる一対一の模擬戦闘大会みたいなものだ。
剣術大会などと同様、戦いを通して一人一人が研鑽した魔術を神々に披露し、業を奉納する。
勝者には栄誉が与えられるとともに、その力が神々に認められることを祈念した行事である。
宮廷魔導課主催かつ模擬戦闘を行うので、研究職である技術部は見学。
実際に戦闘に参加するのは若手の宮廷魔術師と、軍の魔術師部隊の人間が大半だ。
――見たままに、見たままに。
そう自分に言い聞かせて、私はメモを取る。
リュート様はいらっしゃらない。
外出許可自体、なかなか出ない方だ。今回も準決勝・決勝予定時刻の見学のみしか許されなかった。
今日の私の仕事は、リュート様がいらっしゃるまでの競技のメモを取ること。
目の前では、奉納の意が強い見目華やかなものから武骨なものまで、多種多様な術式が繰り広げられている。
戦闘スタイルも杖だったり、剣などの武器を用いていたりと様々だ。
この競技会に出ることも簡単ではない。
各団体の希望者の中からさらに予選を勝ち抜いた、実力者ばかりが参加している。
更に奉納祭の一環のため、王侯貴族らも見学している。
まるで闘技場のような白熱した空気を感じながらメモを取っていると、聞きなれた言葉が聞こえた気がした。
「……なぁあれ、骨女?」
「うわ、鉄屑じゃん。なにしてんのあいつ」
「なんか書いてる……まだ諦めてないんじゃね?」
――ああ、学生時代の同級生か何かか。
あの頃の私は、自分にサンビタリア家最大の特徴といっていいはずの高出力攻撃魔術の適性が無いことで悩んでいた。
どうして自分に適性が無いのか、どうしたら一族の皆のような術式が使えるのかと、食事の暇すら惜しんで勉強していたな、とふと思い出す。
周囲の人間の視線が怖くて、目が合わないように髪も伸ばし放題にして俯いていた。
ガリガリの体でぼさぼさ頭だった私は、まさしく「骨女」だっただろう。
気味の悪い同級生がいたことを覚えていたらしい彼らに、心の中でこっそり謝罪して、意識の外に追いやる。
私の仕事は、リュート様のための競技のメモだ。
◇
もう少しで準決勝と気を抜いたのがいけなかった。
ぐいっと急に髪を掴まれる。振り向いた先にいたのは、厳格な大叔父だった。
人一人くらい射殺せそうな眼光で、私のことを睨んでいる。
「貴様、なぜここに居る」
「ご無沙汰しております。任務でございます」
正直に言ったが、信じてもらえなかったらしい。さらに強く髪を引かれた。
「貴様が役立つことなどあるわけがないだろう。外に出て恥を晒すな」
どうしよう……。
大叔父の言いたいことはわかる。けれど、本当に任務なのだ。
この後リュート様がご覧になるはずの、このメモを疎かにするわけにはいかない。
「……申し訳ありません。ですがこれは、本当に正式な任務でして――」
どうにかして信じていただこうと言葉を重ねるが、火に油だったらしい。大叔父の手の力が強くなり、髪が何本か抜けた音がした。
「ふん、一族の恥さらしが偉そうに。魔導の才もないくせにみっともなく姿を現しよって。ルークに迷惑をかけるな。来い!」
そのまま見学席の後ろにある、通路に引きずられそうになる。
選手が入場したらしく、会場が沸く。
これから準決勝……弟のルークの出番だ。
12歳の若さで宮廷魔導課入りし、この魔術競技会への参加を果たしたサンビタリア家期待の嫡男、その晴れ舞台。
大叔父としては、その場に私がいるのが我慢ならなかったのだろう。
リュート様の到着予定時刻が近いので、もうメモの必要はないかもしれない。
でもリュート様の到着を確認できないうちはメモも取っておきたいのに……。
などと思っていたら、急に髪から手を離され、たたらを踏む。
顔を上げると、リュート様が私を背に庇うように立っていた。




