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「どうして、飲んでくださったんですか?」
少し落ち着いてから、仕事を再開したリュート様に聞く。
リュート様は書類から顔を上げ、宙を見る。言葉を探しているようだった。
「……前、言ったことあったっけ、色恋的にやらかされたことがあるって」
「え?……はい、そうですね」
忘れるはずがない。
リュート様から想いに応えられないというお話を頂いた、あの時だ。
でもどうしてその話を……?
疑問に思っていたら、リュート様がいつも通りの淡々とした表情で口を開く。
「それが、さっきの話。屋敷で盛られたのは酩酊薬、犯人は行儀見習いで来てた遠縁の貴族子女。動機は『ずっと憧れてて思い出が欲しかった』、だってさ……笑えるよね」
ひゅっ、と喉の奥が詰まるような感覚がした。ああ、だから……。
胸の痛みに耐えつつ、あの時のリュート様の言葉を思い出す。
――昔、やらかされたことがあって。……というか、ぶっちゃけ、いい思い出ない――
――キミは変なことしないだろうし――
リュート様にとって、"自分に恋心を抱いている誰かが側にいる"という、それだけでかなりご負担だったのだろう。罪悪感に胸が張り裂けそうになる。
本当に、どうして?よりによって、リュート様をお慕いしている私の、淹れたお茶を飲む気になってくださったんだろう。
リュート様は相変わらず宙を見たまま、言葉を続ける。
「でも、キミが……キミは、あんまりにも一生懸命だから」
ふと赤茶色の瞳がこちらを向いた。
「キミのこと、信じてもいいかなって、ちょっと思った」
「……っ!」
どうしよう、今、絶対耳まで真っ赤だ。
私が貴方をお慕いしているってご存じでしょうに。私なら大丈夫だと信じてくださるなんて。
想いには応えられないって仰った口で、それはずるい……!
リュート様も自覚はあるのだろう、いつもよりわかりやすく苦笑している。
「キミの想いには応えられなくても、信頼は返したい。そう思ったんだ。あと僕自身、そろそろ克服したいとも思ってた。もうすぐ年も明けるし、色々とタイミング的にいいかなって」
「じ、じゃあ……」
「ん?」
リュート様が優しい顔をされているのをいいことに、我儘を言ってみる。
「これから、リュート様のお茶、私が淹れてもいいですかっ?」
「キミ、そんなに僕の世話がしたいの?」
「はい!何なら侍女扱いしてほしいくらいです!」
ふ、とリュート様の目尻が緩み、口角がほんの少しだけ上がる。微かではあるが、確かに微笑んでいた。
「……本当に、とんでもない子が補佐官になった」
◇
数日後の朝。私はいつも通り寮で起き、身支度をする。
食堂で朝食を食べ、技術部棟に向かう。年末年始のため、いつもより少し人がまばらな廊下を進む。
顧問室の扉を開くと、赤茶色の髪が見えた。
「あ、もう朝か。おはようサンビタリア」
また徹夜したらしいリュート様に、苦笑しながら応える。
「おはようございます、リュート様。お茶淹れますね!」




