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わが国では、冬至の後に訪れるこのひと月を籠月、もしくは微睡月と呼んでいる。
冬至を越え月神が休み始め、太陽神が目覚め始めるこの月は、神々が微睡む月。
本格的な冬支度や新年に向けた準備などを終えた後は、新年まで静かに冬籠りするところから名前が来ているらしい――が。
「お偉いさんたちは月の前半に会議類全部押し込めるだけかもしれないけど、通常業務やりながら来月までに資料とか整え直すこっちの事も考えてほしい」
リュート様の珍しい愚痴に、思わず苦笑する。
慣れていても、忙しいものは忙しいし、疲れるものは疲れるらしい。
年末ということで、技術部も例に漏れず、一年の締めくくりの会議や定例報告会などが行われていた。
本来は微睡んでいるはずの月の後半。
会議で発生した新しい仕事と、それにより滞った通常業務が重なるため、結局のところ先月に引き続き……いや、むしろそれ以上に怒涛の忙しさだ。
「サンビタリア、今なにしてる?ちょっと手伝って欲しいんだけど」
「はい、議事録の打ち起こし及び記録用レポートへの取りまとめ中ですが、何でしょうか?」
リュート様の手がぴくりと止まる。
「は?2班の終わったって言ってたよね?何班?」
しまった、小まめに報告してるのが裏目に出た。
何と答えていいか分からず、しどろもどろになってしまう。
「あの……えぇと」
「まさか向こうの班?」
「はい……あ、でも6班ですし!あの、街灯設備の件なので……」
リュート様の強い視線に、だんだん声が小さくなる。
先日の街灯設備の実地試験の成功を、国は大変お気に召したらしい。さっそく新聞など広報・外部向けの報告資料の作成指示をはじめとする、追加業務が沢山降りてきた。
そのせいでウェンさんが真っ青な顔でフラフラしていたので、私にできる仕事だけでも、と業務を分けていただいたのだ。
本来の私の担当は、リュート様が指導を担当している、1班から5班の基礎研究・応用研究・外部依頼対応などの班。
対して6班から10班は魔導機構や医療魔術、古魔術などより深くて狭い範囲の研究班。
こちらはゼフト部長とウェンさんの担当だ。
部長補佐官は元々3人……なのだが、聖女研究関連で渉外担当が完全に身動きがとれず、庶務・経理担当は1班から10班まで全て担当しているうえに年末進行。
ゼフト部長もリュート様のように査読など研究者業務に集中できる余裕なんてあるはずもなく……結果として、通常業務が実務系補佐官であるウェンさんに集中しているらしい。
「ゼフトにもう一回苦情言ってやろうかな」
リュート様が右手でこめかみを抑えながら毒吐く。
これは結構疲れていらっしゃる……!
「あ、あの!あと1時間くらいで終わりますので他作業入れます!」
「……あと1時間で終わるなら、終わらせてそのまま夕食食べてきな。ついでに3班にこれ渡して"忙しいのは分かるけど細かい計算ミスしすぎ"って釘刺しといて」
リュート様から紙の束を受け取る。
報告書にはビッシリと書き込みがされていた。
「は、はい!ええと、お手伝いの内容も、今のうちにお伺いしましょうか……?」
「あー、そっちはいい。戻ってきたらキミの業務一旦全部確認させて。他の班からの依頼、どうせまだあるでしょ」
◇
夕食を食べに食堂に向かいがてら、3班の研究室の扉を開くと、床で人が寝ていた。
レポートや報告書の提出、日報の件などでよく話す人だ。
「あー、サンビタリアさん。ごめん、そいつ寝かせてやってー、寮にも帰れてないんだわ」
そう言いながらバタバタと班長さんがこちらに来る。
「……回復しましょうか?」
「ありがたいけど、1人やり始めたらサンビタリアさんの魔力が枯渇するまで列ができちゃうからやめときな」
それは困る。そんなに長時間リュート様の補佐を離れるわけにはいかない。
「リュート様からの査読戻しです。お渡ししても?」
「ああ、ありがとう…………って」
びっしりと書き込みされた報告書を見て、班長さんが崩れ落ちながら大笑いする。
「あはははは!!!やっば!やーばい量の修正と指摘返ってきた!!」
「忙しいのは分かるけど、細かい計算ミスが多かった。だそうです」
「うわ本当!?ははっ、いやーもうこれ無理じゃね?はー笑った笑った。ありがとうサンビタリアさん」
笑いすぎて涙が出たらしい班長さんは、目元を拭いながら班員に向き直り、声をかける。
「ちょっと4班に手伝ってもらえないか相談してくるわー」
…………ん?
「あの、4班って余裕あるんですか?」
「ああ、この間の実地試験が成功したばかりだから、本当にヤバかったら1人くらい貸してくれるって言ってたけど……?」
やってしまった、自分の担当班の状況を把握しきれていないだなんて。
さっきのウェンさんの仕事、どうせ街灯設備の件なんだから4班に回せばよかった……!




