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「あーーー、疲れましたぁ」
リーリがぐったりとした声を上げる。
打ち合わせのあとお昼に誘ってもらったので、一緒に食事をしたところだ。
よほど疲れていたのか、リーリにしては珍しくデザートにケーキまで食べている。
拗ねたようにケーキを頬張るリーリが妙に可愛くて、思わずくすくす笑ってしまった。
本当に可愛い。こんなに可愛いのに、あんな……。
「……リーリって、すごいわね」
「カレンさん?どうしました?」
「新人なのに、もうあんなに大きな案件を任されてるなんて、すごいなって」
「えへへ、ありがとうございます~」
照れたようにへにゃりと笑うリーリからは、激しく議論していたときの面影はない。
それでも、私の脳裏からさっきの打ち合わせの光景が消えてくれることはなかった。
――リュート様、すごく楽しそうだった。
リュート様は魔術や研究に関して議論されるのがお好きだ。たまに徹夜で班員数人と語り明かしているのも見かけるし、日中もよく相談に乗っている。
こういう時、私は補佐官なのだなと痛感する。
私の仕事は、彼らが語らえるように周辺事務をこなし、徹夜した彼らが業務に支障をきたさないよう補助することなのだから。
「カレンさん……?」
声をかけられハッとする。黙ってしまった私を、リーリが不思議そうに見ていた。
誤魔化すように声を出す。
「わ、私も頑張らないとね、せめてもう少し基礎知識を入れて、事務作業で困らないようにしないと」
途端にリーリが心配そうな顔になる。
「え、カレンさん、今後7班のサポートにも入るって言ってませんでした?大丈夫ですか?」
「それはそうなんだけど、あれってどちらかというと回復術士として治療経験がある人に声をかけてるだけみたいだから」
7班は医療系、それも理論寄りの研究をしている。
そのため医療魔術は使えても、現場での治療経験がある人はほとんどいないらしい。
私は護衛官のなかでも支援・医療担当だったので何度か治療経験があり、いないよりマシと声を掛けられたのだ。
「無理しないでくださいね、ほんとにですよ!」
「ありがとう、気を付けるわね」
……でも、無理をしなきゃ、凡庸な私は皆に迷惑をかけてしまうから。
◇
飛ぶように日々が過ぎた、ある日の夕刻。
時刻としてはまだ夕方のはずだが、辺りは暗く日が落ちるのもすっかり早くなった。
――明日は冬至、月の女神さまが最も輝く日だ。
査読用にかき集めた本を抱え、顧問室へ戻る。
「戻りました!」
「おかえり。それ、どこの班の分?」
「3班です。最終確認をしますので、少々お待ちください。すぐにお渡しします」
自席に座りながら応える。月次報告書の図表や出典、添付資料の揃いの確認や日報との齟齬確認は、私にもできる仕事だ。
報告書や論文が上がってきたら、リュート様の査読に回す前に、できる限りの確認を済ませてからお渡しするようにしている。
「5班ってどうなってる?」
「部長から、国勢庁向け中間報告書を追加で作るよう指示を受けましたので、作成中です。明日の朝にはお見せできると思いますので、ご確認お願いいたします」
「分かっ……明日の朝?」
リュート様が席を立つ。
こちらに近づいてきたので慌てて立ち上がろうとするも、手で制され、座ったまま話す。リュート様だけ立たせてるなんて、なんだか落ち着かない。
「大丈夫?この後、実地試験だけど」
「大丈夫です!……けど、資料、あとで寮に持ち帰ってもいいですか?」
自机の上は、書類で溢れている。
もうすぐ年末のため、各班ともに報告書や資料作成依頼など、いつもより書類仕事が飛び交っているためだ。
実地試験のあとも作業しないと終わらない量だけど、長居してリュート様の邪魔になるのは避けたかった。
今日だけじゃない。最近は、持ち帰ってできる仕事は寮で片づけるようにしている。
リュート様は私の机を見て、少し考えるそぶりを見せる。
「しんどいなら僕と4班だけで行ってこようか?」
「だ、大丈夫です!行かせてください」
慌てて答える。
「本当?無理はしなくていい」
リュート様の声色は明らかに私を心配している。気を遣わせたことが申し訳なくて、にこりと笑って答える。
「本当に大丈夫です!全部自分がやりたくてやってることですから」
本当に今は大丈夫だ。吐き気がするくらいの酷い頭痛も、倦怠感も、何も感じない。
回復術式が得意だと、こういう時、便利だなと思う。
今日の実地試験は、せっかくリュート様が外に行くのだ。どうしてもご一緒したかった。




