表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/118

5-1

寮の中庭で、ゆっくりと吐いた息が白く染まった。

そのまま冬の凜とした空気で肺を満たす。

先月のお姉様の誕生日パーティー以降、起きる時間を1時間早くして朝に自主鍛錬を始めた。

基本の格闘型をなぞるだけでも、体力向上になり日常の所作も軽くなる。


身支度も済ませて技術部棟に向かい、自机に向かうとメモが置いてあった。


"仮眠してるから時間になったら起こして"


思わず笑みがこぼれる。

あの夜以来、リュート様は私に余計な気遣いをしなくなった。部下として扱ってくださっているのがわかって、それがかえって嬉しい。


執務室の掃除を軽く済ませて、各班の日報を確認してから仮眠室に入る。

寝台で眠っているリュート様に、声をかけた。


「おはようございます、リュート様」

普段なら私の気配ですぐに起きるリュート様だけど、今朝は珍しくぐっすり寝ている。

本当ならもっと寝かせて差し上げたいけれど、始業時間が迫っているため大きめの声を出す。


「リュート様!もう少しお休みになりますか?」

ふるり、と睫毛が揺れて赤茶色の瞳が見える。

気だるげにこちらを見る姿に、不覚にも胸が高鳴ってしまったのを必死に抑え込む。


「……おはよ、サンビタリア」

リュート様がゆっくりと起き上がりながら声をかけてくださる。寝起きの掠れ声すらかっこいいのは、本当に反則だと思う。


思わずぎゅっと手を握りしめる。

何度も何度も押し込めたはずの想いなのに。また顔を出してきたそれを丁寧に押し込む。

――想いというのはどうしてこんなにも厄介なんだろう。


なんでもないように微笑みを浮かべる。

「おはようございます、リュート様。昨日はお休みありがとうございました」


執務机の様子を見る限りでは昨日はかなり忙しかったらしい。明け方まで業務をされていたんだろう。

「繁忙期に休んでしまい申し訳ございません」

「……気にしなくていいよ、昨夜は本に集中しすぎて時計見忘れただけだから」


本当はお仕事をされていただろうに、私が気負わないよう気を遣ってくださったのだろう。

リュート様の言葉選びに、本当に優しい方だなと思う。

「今日は10班と会議だっけ?」

各班の日報に目を通しながらのリュート様の言葉に、頭を切り替え集中する。仕事の始まりだ。


「はい、部長からのご依頼です。そろそろこちらの意見も欲しいとのことです」

「うん、わかった。……ああ、2班の複合材の浸透調子良さそう。1班に声かけといて」

「承知しました。結果は週次報告会で大丈夫ですか?」


「そう伝えて。……そうだ、この日のスケジュール調整して欲しいんだけど」

リュート様が書面を私に預けてくる。4班主導の実地試験の概要だった。

「ずっと日程揉めてたけど、この日に決まったって。僕も顔出せるらしいから」

「えっ!許可下りたんですか!?」

思わず驚いてリュート様の顔をしっかり見てしまう。

リュート様は淡々とした表情のまま、少しだけ首を傾げる。


「どうしてキミが驚くの。分厚い資料作って、僕が行かないとダメって上に掛け合ったの、キミでしょ」

「それはそうですけど、通ると思ってなくて……よかった……っ!」

じわじわと喜びが体に染みていき、頬が緩んでしまう。


そんな私の様子を見ていたリュート様が、不意に口を開いた。

「ありがとう」

「……え?」

「今回の実地試験は、本当に参加したかったから」


お顔こそいつもの無表情だが、その声色が温かくて、本当に喜んでくださっているのが分かる。

少しでもお役に立てたのだろうか。全身がぽっと火照り、そわそわしてしまう。


「あ、あの!また行きたい調査とかありましたら仰ってくださいね。分厚いの書きますから!」

「うん、期待してる」

「~~~~~っ!」

うう、たぶん私、いま真っ赤になってる。

動揺を誤魔化すかのように概要書を確認していく、実施予定日の欄を見た瞬間、一瞬思考が逸れた。


あれ、この日って……。



「魔術式の途中で変質状況を取得するのはいい発想だと思うけど、であれば場に対しては安定化より強度を優先すれば?」

「でもそうすると数値に乱れが出ません?」

「言いたいことはわかるけど、このままじゃ安定化のせいで減衰すると思うよ。環境値ごと書き換えるぐらいの強気でもいいと思う」

「反発値と許容値と……えげつない式になりそうなんですが」

「そう?」


10班での打ち合わせ、参加者はリュート様と私、そして10班長のバロワさんと……いま、リュート様と議論を白熱させている、リーリだ。

いつも一緒に講義を受けているはずのリーリの、研究者としての姿に驚きを隠せない。


来年の夏に行われる予定の、聖女研究主導権をめぐる研究発表会。

いまはそれに向けての方針出しおよびいくつかの試案についての評価中だ。

最終的にはゼフト部長が決定するらしいが、リュート様の意見も欲しいとのことで場を設けることになった。


「ローゼスさんて凄いよねぇ」

バロワさんがこっそりと私に話しかけてくる。

「ものすごくパワフルで頭の回転も速くてさぁ。心の底から楽しんでやってるって伝わるから、見てるこっちも楽しくなってきちゃって。うちの班の空気もすっかり明るくなったよ」


バロワさんの視線に促されるように、改めてリーリとリュート様を見る。

「これの最終目的は分析じゃなくて再現でしょ。分析研究優先したいならこっちの案の方がいいと思うけど」

「……全部やりますって言ったら、1班の新記述用の術式基盤使わせてくれますか?」

「今から術式基盤変える気?あと、この仕様に使えるか検証できてないからダメ。検証終わる頃には年が明ける」


「うぇえ、現基盤でこれやれってことですかぁ……。班長~~!」

「あはは、あとで皆に相談しよっかー」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ