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幕間(4話の翌朝 リュート視点)

「カレンさん居ますか!?」

「サンビタリアは休ませた」


翌朝、ローゼスが朝イチで執務室に乗り込んできた。

昨日の件についてサンビタリアに話が聞きたかったらしい。


気持ちはわかるが昨日はサンビタリアにかかる負荷が重すぎた。通常業務に加え、僕とローゼスの衣装の準備、親族からの暴言、僕との話……。

流石に疲れただろうと休むように指示をした。

指示された本人は「私が休んだらリュート様の業務量がおかしいことになります!」ってこの世の終わりのような顔をしてたけど。


ローゼスに長居されても邪魔なので追い返そうとした瞬間、ゼフトが来た。

ちょうどいいので逆にローゼスを巻き込む方向へ思考を切り替える。

「おはようリュート、ローゼス、昨日はありがとうな。あれ、サンビタリアは?」


「あの子は休ませた。それよりゼフト、昨日のアレ、何?」

腕を組んでゼフトを見れば、意外そうな顔が返ってきた。


「アレ?サンビタリアのご親族の件?……お前のその反応、釘さしておいて正解だったな」


ローゼスが不思議そうな顔をする。会場へは別の馬車で向かっていた彼女が、知らないのも当然だ。

「ローゼス。ゼフトは昨日、馬車で僕に"サンビタリアに何があっても決して手を出すな"って言ったんだ。あの子がどういう目に合うか分かってたんでしょ」

「なっ!?ほ、本当ですか部長!」

ローゼスと二人で魔力濃度を上げて圧をかけるが、ゼフトは飄々とした表情を崩さない。


「予想以上の出来栄えで、お偉いさん方は大喜びだったよ」

「聖女の実妹に対するあの扱いを周知することに、何の意味があるわけ?」

「お前もローゼスも気付いただろう?"()()()()()妹を大切に思ってる"って。そこの事実周知が今回の目標だったらしい。聖女派が大量に釣れたってさ」


思わず舌打ちをする。

宮廷魔導課と技術部(ウチ)、どちらに研究を任せるかについて、貴族連中も大きく保守派と革新派に分かれてはいるが、もう一つ大きな派閥がある。

聖女派――要は聖女の意思を最優先に、聖女が望む側に研究を任せよう、というある意味中立派だ。

ただこの連中の厄介なところは聖女への崇拝心が本物なこと。そして、だからこそ聖女の真意を汲もうと行動する点にある。


「魔術院の上層部は、“父や親戚の目があるから表向きは宮廷魔導課寄りだが、本当は技術部で愛する妹と気兼ねなく研究を受けたい聖女様”って筋書きにしたいらしい。

まぁ……昨日の聖女様の様子を見るに、マジでそうっぽいけどなぁ。嘘から出た誠ってやつ?」

「……サンビタリアはもう二度と参加させない。いい?」


同意するしかない内容だが、ゼフトの発言へ同意してしまえばまたサンビタリアを貸し出す大義名分が出来てしまう。

反応を避けこちらの要望だけを伝えると、ゼフトは肩をすくめる。


「安心しろって。サンビタリアは俺にとっても可愛い部下だし、お前と揉めたいわけでも、業務に支障を来したいわけでもない。案件副担当のローゼスにそっぽ向かれても困る」

ローゼスがムッとした顔で本当に目線を逸らし、ゼフトが苦笑する。

「上層部にはこれで貸しが出来たし、しばらくはのらりくらり躱すさ」

「……わかった」


ローゼスを退出させ、ゼフトと二人になる。

最近はサンビタリアかウェンがいることが多いので、二人だけは久々だ。


「悪かったな、リュート。サンビタリアのこと守り切れなくて」

ゼフトは技術部員がいる前では弱みをあまり見せようとしないためか、二人になってようやく明確な謝罪を口にした。

そもそも、この部屋に来たのも謝罪が目的だったのだろう。神妙な顔で僕の返答を待っている。


サンビタリアをあんな目に遭わせたことについて、ゼフトの本意でないことは重々承知している。が、一人の女性に大衆の面前で恥をかかせるなんて行為自体は許容したくない。

なので否も応も返さずに軽口を返す。

「……昨日の件、ウェンにチクっていい?」


ゼフトとの付き合いは長い。こちらの言い回しでゼフト本人を責める意思はないことを察したのだろう。表情を崩して軽口に応じる構えを見せた。

「ぶっ倒れそうなアイツにこれ以上心労掛けられるならやってみろよ。聖女研究の渉外で補佐が一人完全に動けなくてなぁ、絶賛修羅場中だ」

「人員補充もなく補佐官一人持ってかれたの?上層部って補佐官使い潰す気?」

「お前や俺と違って、研究者じゃない事務職なんて簡単に代わりが見つかるって思ってんだろ……そんなわけないのにな」


ゼフトの声は絞り出すようで、悔しさが滲んでいた。


「……そうだね」

自分の補佐官の、銀色の髪が脳裏をかすめる。


昨夜は彼女の献身的な姿勢について、否定することも真正面から受け止めることもできなかった。

出来たことといえば、想いに釘を刺すことだけ。


優秀だし補佐官としては重宝しているけれど、想いに応える気は無いので早めに線引きしておきたかったのは事実だ。

けれど、過去の出来事のせいにして、なんの関係もないあの子に随分と強い言い回しをしてしまったと、少し反省する。

――こういうとき何が正解なのか、全く分からない。


じ、とゼフトを見てしまうと、視線に気付いたのか不思議そうにされた。

「なんだよ?」

「……十代の頃、ゼフトとウェンと義家族以外、まともに会話した記憶、無いなって思ってた」

「仕方ないだろ、あの状況じゃ。急にどうした?」

「別に」


対人関係に耐性が無いなんて、言い訳にもならない。

本当に彼女のためを思うなら、どうするべきか考え続けないと。

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