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いつも理路整然と話すリュート様が、ゆっくり、少しずつお話になる。
「キミが……自分の意思でここに居たいっていうなら……まあ、いいけど」
「……?」
リュート様の仰っている意味がわからず首をかしげていると、リュート様の眉根が少し寄り、口調が苦々しいものになる。
「今日みたいな目にはなるべく遭わせないように僕も努力するけど、それでも……ここにいる限り、キミが嫌な思いすることがあるかもって話」
思わず目を瞬かせる。
本当に優しい人だなぁと、いっそ感心してしまう。そんなこと、気にしなくていいのに。
ふふっと、つい笑みがこぼれた。
「それでいいんです。今日みたいにいくらでも利用してください。使ってください。リュート様が気に病むことなんて、何もありません」
リュート様は心配そうにこちらを見ていた。こんなに感情がしっかり面に出ているリュート様を見るのは古書の件以来、二度目だ。
――どうせ見るなら、もっと嬉しそうな顔がよかったな。
「変なこと言わないの」
「はい。ふふ、すみません。でも大丈夫ですよ!リュート様のお役に立てるなら、それ以上の幸せはありませんので」
そう笑っていたら、リュート様が何気なく呟く。
「でも良かった。もしこれで働く動機に色恋話が出てくるようなら、悪いけど配置換えも視野に入れてた」
「――っ!」
「そっち方面は昔、やらかされたことがあって。……というか、ぶっちゃけ、いい思い出ない」
思わずビクリと体を震わせる。
だって、リュート様に畏れ多くも恋心を持っていることだって、本当のことなのに。
配置換えは嫌だ。動揺するな、絶対気取られてはいけないと自分に言い聞かせていたら、リュート様から言葉が飛んできた。
「……サンビタリア。念のため言っておくけど僕は、自分に向けられた感情に対して、鈍感じゃないつもり」
“バレてないなんて思うなよ"という、副音声すら聞こえた気がした。
これは、絶対に見抜かれている。
どうしよう、配置換えなんてしたくない。
体が震えて段々と動悸は激しくなるのに、血の気が引いていく感覚がした。
「お、お慕いしているのも、事実です。ですが、この想いが分不相応なのは、り、理解しておりますっ」
身体も声も震わせながら、なんとか答える。
本当に、どうして恋なんてしてしまったんだろう。鉄屑娘に想われても迷惑なことなんて、重々承知しているのに。
「ご迷惑なんて、絶対にかけません。ご心配であれば誓約術式だってかけていただいて大丈夫です!ですから――」
「……うん、キミは変なことしないだろうし、今すぐにどうこうする気はない。業務面では助かってるし」
言い募ろうとした私に対し、あっさりとリュート様が答える。
ぽかんとしていたら、「その代わり」と言いながらリュート様が私に目線を合わせて告げる。
「キミの気持ちには応えられない。部下として扱う。……それでいい?」
ええと、つまり、どういうこと?
急展開に頭の整理が追い付かない。
「サンビタリア?」
「……結局私は、補佐官のままでいられるのでしょうか?」
「いまのところはね。あとは、キミ次第」
――ああ、よかった。安心して肩の力が抜ける。
要は、想い自体はバレてしまっているが、分不相応な望みを持たずにいれば補佐官でいさせてもらえる。という話だったらしい。
「承知しました!補佐官として、精進させていただきます!」
ニッコリと笑う。笑ってみせる。
私の願いは、目標は、リュート様の傍でお役に立つ事。
涙を流し、何かを叫んでいる恋心は黙殺した。




