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4-4

研究所の敷地に着いたのでまず寮に向かい、リーリの着替えを手伝う。ドレスや装飾品は経費で借用した物だそうなので、一通り返却準備まで整える。

リーリに「今度絶対事情を説明する」と約束させられつつ、今度は急いで技術部棟の顧問室へ向かう。


案の定、フロックコートを脱いだだけのリュート様がそのまま仕事をしていた。

今日の夜会に出席するために昨日だって徹夜したはずなのに、本当にすごい体力だと思う。

「リュート様、お支度手伝いに参りました!」


給湯場の隣にある、人一人が立って入れる程度の小さい湯浴み室にリュート様を押し込み、夜会着を受け取る。

こちらも返却用に準備をしていたら、リュート様が戻ってきた。

いつもの降りた前髪とメガネに、なんだかホッとする。


珍しくリュート様がジッとこちらを見てくるのでどうしたのかと思ったら、ゆっくりと口を開いた。

「……助けてあげられなくて、ごめん」

何のことだろう?と思いつつ首を傾げてしまう。数秒経って従叔母の事だとようやく気付く。


「ああ、あれですか?むしろお聞き苦しかったでしょう、申し訳ございません」

「……キミ、どうして今日参加したの」


本当にどうしたんだろう。リュート様の様子がなにかおかしい。ついさっき見慣れた姿にホッとしたはずなのに、いつもと同じはずなのに、なんだか空気が固い気がする。

「どうしてって、業務命令でしたし……」

「キミが、頑張っているのはわかっているつもり。でも……」


赤茶色の瞳が、私を捉える。

「業務量も多いし求められる内容も高い、決して楽とは言えないこんな職場で、今日みたいな辛い目に遭う事も増えるかもしれない。それなのにどうして……キミはここで働いてるの?」


ドキリと心臓が跳ねる。

リュート様は、私が伝手を頼って補佐官になったことをご存じだ。

ご自身の補佐官についてなのだから、知っているのは当たり前だろう。でも、その理由について聞かれたのは初めてのことだった。


もちろん、私から説明したことはない。

そういう余計な話はリュート様のお邪魔になると思ったし、煩わしく感じられると思ったからだ。


どうして急に気になったのかは分からないけれど、リュート様から問われて答えない、なんて選択肢は、私にはない。

「えぇと、リュート様は覚えてらっしゃらないかと思うんですが、私、学生時代にリュート様と会ったことがありまして……」

「それ、もしかして魔力適性検査の時?」

「っ!、お、覚えていらっしゃったんですか?」


絶対に覚えていらっしゃらないと思っていたので驚いた。

喜ぶ私とは対照的に、リュート様は少し困ったように眉根を下げる。

「普通の検査だったと思うけど、あれがどうしたの?」

「私にとっては大切な思い出なんです!あの検査が……リュート様のもとで働きたいって思ったきっかけなんです」


――そうとだけ答え、全部を言うのは流石に止めておいた。



学生だった頃、多分、私は限界だった。

サンビタリア本家の次女にもかかわらず、一族の特徴である瑠璃色の要素がない。挙句の果てに、一族の誇りたる高出力系の攻撃魔術も使えず、幼い頃から母譲りの銀髪は「鉄屑」と呼ばれ、役立たずと言われ続けた。


親族のそんな空気は、社交界にも伝播する。

私の評判は、貴族子息が通う高等王立学園に、入学前から知れ渡っていた。

周りから見られている気がする。皆が私の悪口を言っている気がする。責められている気がする。嘲笑されている気がする。気がするだけじゃなく、実際の陰口を聞く機会も沢山あった。


それでもなんとかしたくて、学園中の本を読み、勉強し、知識をかき集めた。一族の皆と同じ、高出力系攻撃魔術さえ使えれば、何か変わると信じていた。

自分なりに頑張って頑張って頑張ったつもりだったけど、結局何も変わらなくて。

――正直な話、もう、終わりにしてしまいたかった。

そんな時。


学科の成績だけは良かった私を不憫に思ったのか、教師が、たまたま学園に訪れていた技術開発部員に声を掛けた。

それが、まだ若手研究員だった頃のリュート様だ。


『ウチで改良中のこれ、使ってみてくれる?』

そう言って適性検査用魔導具の試験品を、私に使わせてくださった。


『すごいね。これだけの精密さと安定性が出せる子、そうそういない』

生まれて初めて、魔力のことで褒められた。


『キミ、支援術……特に医療系が向いてる』

『また誰かに何か言われるかもしれないけど、気にしなくていいんじゃない』


『誰かの役に立てる力を、キミはちゃんと持ってる』


もし本当に、私に誰かの役に立てる力があるのなら……私は貴方の、リュート様の役に立ちたい。



「サンビタリア?」

急に黙り込んだ私に、リュート様が声をかける。


物思いから浮上した私は、笑顔で答えた。

「あの検査の時、リュート様だけが、私を評価してくださったんです。それが嬉しくて、だから……補佐官としてお役に立つために、私はここにいます」

「……そう」


リュート様の負担になりたいわけではないので端折って伝えたが、それでも少し、重かっただろうか?

心配になってリュート様を見るが、相変わらずの無表情で何か考えているようだった。


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