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4-3

リュート様と合流し、二人が入場した途端、会場の空気が変わった。

こんな美男美女どこから来た!?と騒然となり、少しずつ話しかけてくる人数が増え、今では軽い人だかりになっている。


護衛官の制服を着ている私は、二人の邪魔にならないよう後ろに控えつつ、たまにリーリにそっと耳打ちして重要人物を伝える。

ただでさえ激務の二人には、そこまで覚える時間的余裕はなかったためだ。

リストアップから暗記まで付き合ってくれたウェンさんには頭が上がらない。


それにしても、リュート様もリーリも本当に凄い。研究者として物怖じせず振る舞い、堂々と受け答えをしている。

――二人ともすごくて、そんな二人を見れて嬉しいって思うのに、置いて行かれたような迷子になったような、何故かそんな気持ちになる。


その感覚が嫌で、正式に会が始まったタイミングで護衛に問題がない程度、二人から離れた。

精神安定の術式を発動しようとした瞬間、声をかけられる。


「……カレン?」


姉を溺愛……盲愛している従伯母だった。側には再従姉たちもいる。

3人の姿を見た瞬間、頭の中がスッと切り替わる音が聞こえた気がした。


離れていてよかった。これから降ってくるであろう言葉を二人に聞かせるのは……嫌だから。


従伯母は私のことを嫌そうに見る。

「……汚い鉄屑みたいな髪が見えたから誰かと思ったわ。相変わらずサンビタリアの名を持つのが恥ずかしい風貌ですこと」


軍服を着ているのでカーテシーではなく立礼で応える。

「ご無沙汰しております。ご健勝そうでなによりでございます」

「白々しい。あなたみたいな瑠璃色も持たず魔術の才もない汚い鉄屑が、クルーゼちゃんの視界に入るなって何度言えばわかるの?本当に人の話も理解できない愚図なのねぇ」


――ああ、やっぱりこうなった。


私はサンビタリア直系の外見的特徴である瑠璃色の要素を持たずに生まれ、一族の誇りである高火力攻撃魔術の才もなかった。

お姉様の後に生まれた娘がこの体たらく、一族の失望は計り知れなかったらしい。

私への言葉はもう、彼らにとって標準装備だ。


でも不思議。王城に来るまであんなに怖かったはずなのに、投げかけられる言葉に妙に安心してしまった。

鉄屑で、(ゴミ)で、価値がない。

――それが私で、ここが私の居場所。

背筋が伸びて地に足がつくような、不思議な感覚だった。


しかし従伯母たちが白熱してきて少し焦る。周辺の何人かが気付き始めた。

このままではリュート様とリーリにも聞かれてしまう。例え自分宛ではなくてもこんな言葉、聞きたい人間の方が少ないだろう。


「全くお前はどうしてそう役立たずなの?野犬の餌くらいしか価値が無いんじゃない?」

「まあお母様、この子のお肉なんて野犬でも逃げ出しますわぁ」

「そうそう!火にくべて燃料にしても匂いそうだしぃ、ねえ、お前、何の役なら立つの?」

くすくすと笑う従伯母たちの向こうから、ほんのわずかにピリッとした気配を感じ、ざぁっと血の気が引く。

そっとリュート様たちの方を見ると、赤茶色の瞳と目が合った。


どうしようどうしよう、止めなくちゃ……!聞かせたくない、こんな汚い言葉、あの人に触れさせたくない!


なんとか静まって欲しくて必死に頭を下げる。

「度重なるご指導ご鞭撻、誠に痛み入ります。わたくしの愚かさ、至らなさは重々承知しておりますが、祝いの席ですのでどうか……」

「……っ!(ゴミ)のくせに私に意見する気!?」


従伯母が怒りに任せ、手に持つシャンパンを私にかけようとする……が、空中に放たれたシャンパンが、蝶の形をとり、ひらひらと会場を舞い始めた。


「おばさま」

美しい声が聞こえる。泉の精のような、澄み切った美しい声。

声の方を振り向けば、澄んだ泉のような淡い水色の髪と、目が覚めるような美しい瑠璃色の瞳を持つ佳人――我が国が誇る水の聖女、クルーゼお姉様が立っていた。


蝶を象っていたシャンパンが、ゆっくりと従伯母のグラスへと戻っていく。


「おばさま!嬉しい!お祝いに来てくださったんですね、とっても嬉しいです!」

お姉様は私を素通りし、従伯母たちの元へ駆け寄る。


姉の登場に、従伯母たちは目を輝かせて甘い声で話しかけた。

「あぁ、可愛い可愛いクルーゼちゃん。お誕生日おめでとう。ごめんなさいね、あなたの視界にあんな(ゴミ)を入れたくなくて、綺麗にしたかったんだけど……」

「そんなこと、どうかお気になさらないで!あっちにとっても可愛いお菓子がありますの、案内しますね!」


そうして移動していくお姉様と従伯母たちを無言で見送っていると、お姉様がこっそりと、ほんの少しだけこちらを向いた。

『ごめんね』

音に出さず口だけで象って、お姉様は去っていく。


――可哀想なお姉様。不出来な妹を見捨てることもできず、いつも私の尻拭いばかり。

私がこんなじゃなかったら、お姉様にも家族にも、誰にも迷惑をかけなかったのに。


「カレンさんっ……!」

リーリが駆け寄ってこようとするので、慌てて近づき制止する。

「駄目よリーリ。私の味方のような振る舞いをしては駄目。貴族の心証を損ねるだけでメリットはないわ」

「え、え」

「社交界での私の扱いはいつもこんな感じだから。耳障りだったでしょう、ごめんなさい……これ以上ここに居ると迷惑になると思うから、控え室にいるわ。帰るときに教えてね」


近づいてきたリュート様にリーリを預け、会場を後にする。リュート様の顔は、怖くて見れなかった。



「カレンさん、何だったんですかアレ!?」

帰りの馬車が走り出した途端、リーリが怒りを爆発させる。行きと違いリュート様もいるのに遠慮がない。

気にしなくていいと言っても聞いてくれず困ってしまう。


どうしようと視線を彷徨わせていたら、リュート様と目が合う。いつもの無表情だが、少し考え事をしているようだった。

「あの、リュート様……」

「なに?」

応えてくださった感じはいつものリュート様で、ホッとして言えてなかったお礼を言う。


「先ほどはありがとうございました」

「……何が?」

「シャンパン、かからないように防護術式を展開してくださって」

リュート様はしばらく私のことをジッと見た後、「別に」と視線を逸らしてしまわれた。

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