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後日談4(リュートの誕生日)

一昨年は万年筆、去年はブランケット。

今年の誕生日は何をご用意しよう、去年みたいにギリギリにならないように、ちゃんと決めないと……。


そう思っていたら、リュート様に先手を打たれてしまった。

「ブランケットは本当に嬉しかったけど……それでも、去年みたいに過労で倒れそうになりながら、どうにかしてもらう気無いから。僕が当日リクエストするから、それだけ叶えて。分かった?」

「は、はい……」


そう言われてしまっては、どうしようもない。

せめて冬至のお祝いを兼ねて、少し料理を凝りたいところだが、そんな場合では無いくらい仕事がある。

年末進行は毎年あるというのに、なぜか毎年忙しさが増している気がするから不思議だ。



冬至当日。

仕事を持ち帰らない代わりに、少しだけ残業をしてから上がる。


前日のうちに仕込んだ食材に火を通しながら、リュート様に声をかける。

「あの、それで結局、私はどうすれば……?」

「んー、ご飯食べたらお願いするよ」


朝から「お誕生日おめでとうございます」の言葉だけで、まだ何も出来ていない。

せめて料理くらいは頑張ろうと思ったら、当たり前のように手伝われてしまった。今日くらい休んでほしいと伝えても、笑顔で躱されてしまう。


これで良いのだろうか……?

そう思いながらまずは料理を並べた。


一通り食事を済ませ、一緒に片付けをする。

「ご馳走様。今日は手が込んでたね、大変だったでしょ?」

「い、いえ!香草に漬け込んだりと、手よりは時間をかける系が多かったので。あ、ウェンさんに教えて頂いたんですよ」

「ああ、なるほど。なんか懐かしい味だと思った」


そんな他愛無い話をしながら食器をしまい、居間のソファに二人で腰掛けると、リュート様が私をじっと見た。

視線の強さについ、たじろいでしまう。


「あ、あの、それで結局、私はどうすれば……?」

「うーん……元々お願いしようと思ってた事が大変そうだから、どうしようか悩んでる」

「え」

ひやりと心臓が冷える。期待にお応えできない事ほど、恐ろしい事はない。

焦りのあまり挙動不審になってしまう私とは裏腹に、リュート様は顎に手を当て、少し考えているようだった。


「あ、あのっ!わ、私なんでもします!リュート様のためなら、なんでもしますから……!」

思わず涙目で縋ってしまう。

期待してほしいとは言えなくても、リュート様のために何でもしたい気持ちは、誰にも負けないつもりなのに。


私の様子にハッとしたリュート様は、安心させるように肩を抱き額に唇で触れてくださる。

「ごめんごめん、ただ、ちょっと今のカレンにはまだ早いお願いだったなって考え直してただけ」

「な、なにを『お願い』されるつもりだったんです?」

「タメ口」


「……え?」

リュート様のお言葉がうまく飲み込めず、止まってしまった。

タメ口……敬語を外すって事?誰が、誰に???

「まさか……私が?リュート様に??」

震える声で確認したら……満面の笑みで頷かれた。


「あ、あぁ、あの、そ、それはいくら何でも……」

思わずしどろもどろになってしまう。

リュート様のような素晴らしい方に敬意を払うのは当然だし、旦那様に対して対等に振る舞うと言う発想も持った事はなかった。


どうしよう。リュート様のお願いなのだから叶えて差し上げたいけど、そんな畏れ多いこと……。

そう思っていたら、「だと思った」と笑い声が聞こえた。

「ふふ、でしょ?今のカレンにお願いするにはまだ早いかなって」

「ご、ごめんなさい、わ、私、どうすれば……」


敬語を外さずに済んだ安堵と、リュート様の期待に応えられない不安で、ぐしゃぐしゃになってきた。

さらに涙ぐんだ私の耳元に、リュート様が唇を寄せる。

「だから……『様』ついたままでいいから、愛称で呼んでくれる?」


囁かれた内容が信じられなくて、ばっとリュート様の方を向いてしまう。

悪戯っぽい笑顔とかち合った。

「これなら出来るでしょ?二人きりの時だけでいいから……ほら、やってみて」


手を握られ、じっと見つめられる。

口の中がカラカラに乾いていく。

本当は畏れ多くて仕方ない。身体もどんどん震えてくる。

でも……これ以上期待に応えられなくて、幻滅されたくない。


頭がくらくらしてきて、何度も何度も深呼吸する。

心臓が痛いくらい鳴り響く中、なんとか口を開いた。

「……る、ルトさま……」


思ったより小さい声になってしまって不安だったけど、リュート様にはしっかり聞こえたらしい。

途端にとろけるような笑みが返ってきて、全身が熱くなる。

「ふふ、ふふふっ。あー、やば。めちゃくちゃ可愛い」

「リ、リュート様?」


これで良かったのだろうかと声をかけると、ぐいっと引き寄せられ、頬を指で優しく撫でられる。

「駄目だよ、ちゃんと呼んで」

「……あぅ、ル……ルトさま……」


満足そうに笑うリュート様が、今度は私の唇を指で撫でる。

恥ずかしくて畏れ多くて居た堪れないのに……リュート様が笑ってくださるなら、免罪符にしてもいいだろうか。

「そう。これからは、家で二人きりの時はそう呼んで」

「は、はい」

返事をした途端、珍しく噛み付くように唇を奪われ抱え上げられる。

じっと見られすぎて、このまま赤茶色の瞳に吸い込まれてしまうんじゃないかとさえ思う。


「あー、本当可愛い。……このあと、いっぱい呼んで、ね?」

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