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52-2

「カレン!お姉様とお出かけしましょう、貴女を、わたくしのお友達に紹介したいの」

後日、クルーゼお姉様が技術部にいらっしゃった際に声をかけてくださった。


お姉様……というか、サンビタリア家にも私が襲撃を受けていたことは情報共有があったそうだ。

退院した数日後、お姉様が家まで遊びに来てくださったことは記憶に新しい。


「私でよければ喜んでお供しますが、ご迷惑では……?」

「とんでもないわ!お友達の家で三人でお茶をするだけだし、あまり気を遣わなくて大丈夫よ」

「承知しました。どちらの方でしょうか?」


ご訪問なら家格に合わせてドレスや装飾品を選ぶ必要があるし、ベスさん達と護衛計画の打ち合わせもある。

そう思ってお姉様に聞いたが、にっこりと笑みを返されるばかり。

「ふふ、内緒よ!姉妹でお揃いにしたいから、貴女は用意しなくて大丈夫。前日のうちにこちらの家に来て泊まって頂戴」

「え?で、でも……」

「あの唐変木にも、もう話を通したから大丈夫よ。護衛官に話もいっていると思うわ」


……唐変木って、まさかリュート様のことですか……?



お姉様の言う通り、リュート様は既にお話をご存じだった。

日程が決まり、伯爵家に一泊し、お姉様のご友人にご紹介頂いたのはいいのだが……。


「お、お、お姉様!なんで教えてくださらなかったんですか!?」

帰りの馬車で、私はすっかり混乱していた。


お姉様に促されるまま訪れたのは王城。

王城の中庭は、上位貴族同士が私的な集まりで借りることもあるので、今回もそうなのかなと思っていたら……。


そのまま王族専用の庭に通され、ついた東屋では王太子妃殿下が待っていらした。

あまりの事態に、気が遠くなったのは言うまでもない。

緊張で震えそうな身体に鞭打ち、必死に取り繕ったが、粗相があったんじゃないかと今でも気が気ではない。


どうして妃殿下に会うと事前に教えてくれなかったのかと文句を言う私に、お姉様はくすくすと笑う。

「だって貴女、妃殿下に会うって言ったら絶対に理由つけて回避したでしょう?」

「だ、だからって、こんな……何の気構えもなしに!」


この国の聖女であるお姉様は、妃殿下とはよくお茶をされるらしいし、確かにご友人でいらっしゃるのだろう。

でも私は初めてお話しさせていただいたのだ。せめて、もう少し心の準備をしてから挑みたかった。

「もう、もう、お姉様ったら……!」

「大丈夫よ。妃殿下も貴女のこと気に入ったみたいだし」

「ううううぅ……」


お姉様の気休めの言葉が、私の耳を素通りする。緊張して 挙動不審な人間との会話なんて、気に入る要素がどこにあるのか教えて欲しい。

そういう意味では、伯爵家で見目だけでも整えてもらえたのがせめてもの救いだったかもしれない。

その後も、馬車の中にはお姉様の鈴を転がすような笑い声ばかりが響いた。



「あはは、クルーゼらしいね」

「ううぅ、リュート様まで知ってらしたなんて……」

家に帰ってきて、思わずリュート様にまでお話ししてしまう。

……ら、なんとリュート様は、お姉様が私を妃殿下に会わせることまで聞いていたらしい。

私の話を、ソファに並んで座りながらニコニコと嬉しそうに聞いている。


「ふふ、カレンはすごいなぁ。男爵夫人になったと思ったら、とうとう妃殿下にまでお目通りだね」

「ううぅ、畏れ多すぎます……なんで急にこんな……」

本当に、なんだったんだろう。

そう思っていたら、リュート様がそっと手を繋いでくださる。


「色々理由はあるんだけどね……カレンの同級生たちの問題と強硬派の抑制、どっちにも効くのが、これだった」

「……え?」

お話しいただいた内容に目を瞬かせると、リュート様が優しく微笑んだ。


「妃殿下とご友人になれば、強硬派はカレンを僕の手綱として確保することが一層難しくなる。それに……妃殿下のご友人を鉄屑呼ばわりするなんて、出来るはずないでしょ?」

その言葉に思わず目を見開く。じゃあ、今回のお茶って……。

「カイルさんに、宮廷情報局の『長』が誰か教えてもらったうえで……相談するべき相手はクルーゼだと判断した。『長』のことは伏せたまま、これくらいの権力者からカレンを守りたいって相談したら、すぐに妃殿下に繋いでくれたよ」

「お姉様と、そんなお話まで……」


リュート様が私の髪を一房とって口付け、目を見て微笑む。

「何でもするよ。キミの傍にいるためなら」


――頬が、全身が熱くなる。

そんな風に、仰って頂けるなんて。


頭が茹だりそうになりながらも、心配のあまり可愛くない発言が口から飛び出す。

「せ、聖女の身内贔屓って、言われません?」

「結婚してすぐなら言われたかもしれないけど、いまのキミの状況考えたら寧ろ自然でしょ」


くすくすと笑うリュート様の指が、そっと私のそれと絡まる。

真っ赤になった私を見て、リュート様が眩しそうに目を細める。

「……可愛い」


そういって私の手をぎゅっと握るリュート様……夫の姿に、私はこの方に一生敵わないんだろうなぁ。

なんて思ってしまった。

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