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52-1

翌日、様子を見ながらも夕方まで業務をした。

かなりの疲労感はあるが、それでも業務をこなせたことに心の底から安堵する。


退勤し、夕食を済ませ少し休んでいたらゼフト部長と班長が家を訪ねて来た。

これからは、我が家の居間が顧問室代わりの会議室になりそうだ。


お茶を出しながら話を聞いていたら、信じられない話がカイル班長の口から飛び出した。

「え、どういうことですか?」

「まあざっくり言うとな……他の案件は別として、技術部周りについてはお前等に完全に味方することに決めた」


聞けば、カイル班長は宮廷情報局と繋がりがあるのではなく……局員の一人。つまり、正真正銘の諜報員だったらしい。

治安院も了承の上だったというのだから、更に驚きだ。

道理で国外での難しい案件や、複雑な立場の要人警護が多かったのかと、変に納得してしまった。


カイル班長は飄々と片眉を上げ、肩をすくめる。

「治安院は実力のある護衛班を技術部に付けたい。宮廷情報局は技術部に局員を仕込みたい。両者の要望に応えられるのにちょうどいいのが俺だったってわけだ」

「なるほど……で、でも、であればどうして技術部に味方するなんて……?」


ちなみに、同席しているリュート様とゼフト部長は全く驚いていない。

私が入院中、カイル班長から既に話を聞いていたらしい。


班長は忌々しそうに視線を下げ、吐き捨てるように言う。

「ウェン氏の件も準軍事行動も教会襲撃も、どれも宮廷情報局が一枚噛んでやがったくせに……俺に一切の共有も断りもなかった」


苛立ちが抑えられないのか、組んで握り込んだ両手がわなわなと震えている。

「ふざけんじゃねぇ。新人も、シュレインも、ベスも、動線確保の連中も、みんな死んでもおかしくなかった。俺の部下が死ぬかもしれねぇ作戦を、俺に無断でやりやがった……っ」

「……っ」

動揺して思わず身を竦ませると、リュート様がそっと肩を抱いてくださった。


宮廷情報局……強硬派が、リュート様を確保しようと虎視眈々と狙っているとは聞いていたけれど、まさかそこまで大それたことを仕出かすなんて。

王都内での襲撃に対し何かしらの誘導を行っていたなんて、安全保障の観点から見たら反逆罪と捉えられてもおかしくないのに。


そこまでして彼らは……リュート様を徹底管理したいんだ。


「大丈夫?疲れてるなら無理して聞かなくても大丈夫だよ?」

心配そうに声をかけてくださるリュート様を、そっと見る。


――こんなに優しくて、温かい方なのに。どうしてこんな目に遭うの……?

やるせなくて、悔しくて、思わずリュート様の服をそっと握り込んだ。


カイル班長は、大きく息を吐いてすこし調子を取り戻す。

「そんなわけでな、局員同士の繋がりを辿ってどういうことか調べてみたら、『長』に気に入られたい宮廷情報局内過激派の暴走ってことになってた」

「暴走って……していいんですか?諜報部署が」

「駄目に決まってんだろ。俺がキレて問い質した頃には粛清されてたよ。もともと俺のことを面白くないと思ってた派閥の連中だった」


「じゃあ……なんで鞍替えしたんですか?」

思わず聞いてしまう。班長の話を聞く限り、宮廷情報局内での政敵とも言える派閥は居なくなったようなのに、なぜ全面的に技術部の味方になる必要があるのだろう。


カイル班長は皮肉気に笑う。

「決まってる。『長』は過激派を止めなかった。つまり、あの人まで俺の部下が死んでもいいと思ってたんだよ」

「ちょっと」

リュート様が焦ったような声を上げる。

どうしたのかと思っていたら、班長が手をひらひらさせる。


「安心しな、ストックリーには『長』が誰かは話さねぇよ。そこまでの危ない橋、渡らせるつもりはないんだろ?」

「当然」

リュート様が隣からぎゅっと抱きしめてくださる。

宮廷情報局の本当の長が書類と違う人だなんて噂、眉唾かと思っていたが、どうやらそうでも無いらしい。

というか、この反応……。

「まさかリュート様、誰が本当の『長』か、知って……?」

「うん、カイルさんが教えてくれた」


一気に血の気が引く。本当に長が書類と別人なら……そんな情報、機密も機密。知っているだけで、それこそ命の危険があるはずなのに!

「は、班長!なんてことしてくれたんですか!!」

「うるせーよ、向こうが『好きにしろ』って言ったんだ。好きにするっての」

思わず噛みついても、カイル班長は片眉を上げるばかりだ。


「今回の件について『長』に直接話をさせてもらったんだけどな、過激派が好きにしたんだから俺も好きにしていいってよ。失敗したら粛清するだけだとさ。だから俺は"好きにして"んの。『長』の正体も覚悟があるやつに流すし、宮廷情報局に流す情報も選定する。今回の件では、全面的に技術部側に付いてやるよ」

「だ、大丈夫なんですかそれ……?班長、消されません?」

「俺が簡単に消されないタマなの、お前もよく知ってるだろ」


……確かに。班長はなんていうか、強すぎて次元がおかしい。

一対多の乱戦系訓練で、シュウさんをはじめとする『矛』の諸先輩方が全員総出かつ本気で仕掛けても、数分で返り討ちにしてしまうのだ。

「……消されるところが想像つきませんでした」

「だろ?」

「ったく、俺とリュートのこと、マジで守れよお前」

けらけらと笑うカイル班長に、ゼフト部長がげんなりと突っ込みを入れる。


部長はそのまま私に顔を向き直す。

「そんなわけで、カイルが"好きに話した"内容は、国のかなり上層部まで内密に届いている。書類や記録には残らないし表面上は何も変わらないが、政治圧力としては十分だろうな」


部長の言葉を引き継ぐように、リュート様が私に頬擦りしながら口を開く。

「おかげでこっちもしっかり対策見通しが立った。油断は出来ないけど、強硬派への警戒は段階的に落とせそうなんだよね」

リュート様は心の底から嬉しそうだ。幽閉して徹底管理される可能性が潰えそうなのだから当然だろう。


――早く、この方がどこにいても安心して暮らせますように。

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