表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/159

51-2

その後は、二人で部長室に挨拶しに行き、班長達に声を掛け、顧問室に戻って来て明日以降の引き継ぎを受けた。


空が茜色に変わる頃、リュート様が立ち上がる。

「さて、今日はこれくらいにして、明日に備えよっか」

「……はい」

「どうしたの?」

「き、緊張してしまって……」


――実は、今日からリュート様が指定居住区画に来ることに……一緒に住むことになった。


夫婦としての同居が許可されたわけではなく、名目上は魔術の使えない私の生活監督者、という区分になるらしい。

なので繁忙期など、必要に応じて顧問室での寝泊まりも今まで通りしていいらしいが、原則は……退勤後は一緒に帰宅し、生活を共にする。

昨日病院で聞かされて、信じられなくて何度も確認した。

ベスさんとシュウさんに手伝ってもらって家中整えたけれど、まだ何処か実感が薄い。


「ふふ、結婚してから半年、まさかこんな形で許可が下りるなんてね」

リュート様は照れくさそうに笑い、私に手を差し伸べる。

「……帰ろうか」


大きくてしなやかな手に、そっと自分の手を重ねる。

「……はい」

これからは、ずっと一緒なんだ。

そう思うと、身体の芯がぽかぽかした。



「……っ」

指定居住区画に向かおうと技術部棟の入り口まで来た時、繋いだままのリュート様の手が一瞬強張った。


「どうされました?」

「ああ、ごめん。緊張してるだけ」

リュート様は苦笑して、そっと後ろを振り返る。


「今まで寮の方とかまで歩いたり、外出許可を取って馬車に乗って外に出たことはあっても……本当の意味で『外』に出るのは、此処に来てから初めてだから」


少しだけ不安そうな、途方に暮れたような、そんな顔。

――リュート様にとって、此処は檻である以上に、安全な要塞だったのだ。

無理をさせてしまったと心配になり声をかけようとしたが、その前にぎゅっと手を握り直される。


「……行こうか」

「大丈夫、ですか?」

「うん。キミと一緒なら」


穏やかに微笑みながら、真っ直ぐに見つめられる。

その赤茶色の瞳に映っているのは、間違いなく、私。

「……リュート様って……」

「うん?」


本当なら此処から出たくないだろうに、出てくれる。

……私のために。

私が無理しないように、私を維持するために、自分の在り方まで曲げてくれようとしている。


相変わらず優しすぎて心配になるし、申し訳なくて仕方ないのに、心の片隅でほんの少しだけ期待してしまう。

――私の思っている以上に、実は想われているのではないかと。


ふるふると首を振って、そっと顔を上げる。

「……ありがとうございます、リュート様。行きましょう」

「うん」


微笑み合うと、シュウさんが待っている出入り口まで、手を繋いで歩いた。



一緒に食事を作り食べ、片付けていたらまた立ち眩みがして立っていられなくなってしまった。

「大丈夫?」

「すみません……」


ソファで休んでいる私のところに、リュート様が温めた山羊の乳を持ってきてくれる。

入院中はずっと安静にしていた挙句、今までは自己治癒に頼っていたせいか、本当に体力が無い。

「お風呂、入れそう?」

「はい。少し休めば……本当にすみません。お手間を……」

「いいよ。僕はキミの『生活監督者』なんだから」


隣に腰かけ私の頭を撫でるリュート様は、幸せそうに笑っている。ちびちびと山羊乳を飲みながら、思わず口を開く。

「……リュート様、あの、嬉しそうですね?」

「うん。カレンのお世話できてる。すごい嬉しい。……落ち着くまで隣でこれ読んでるから、ゆっくりしてな」

「……うぅ、ありがとうございます……」


リュート様の手の中には、私の本棚に収まっていた見聞録。

大変お気に召したらしく、この短時間でもう二冊目に突入している。

「どういうところがお気に召しました?」

「専門家以外の人から見た、当時の価値観や考え方を通した魔術ってこう見えるんだなって思うと面白くて。当時の術式どんなだったかな、ローゼスなら資料持ってるかな……」

「なるほど……リーリに聞いておきますね」


――こんな風に、私が好きな本について話をするの、初めてだなぁ。

そう思いながら本を読むリュート様の隣でしばらく休んでいたら、ぱたんと本が閉じられる。

「そろそろ落ち着いた?お風呂入ろっか」

「あ、はい!じゃあ支度を――」

「平気だよ。あれくらいの量なら水生成する時、水温調整すればいいだけだし」


そう言うと、リュート様はひょいと私を抱えて浴室に向かう。

「……あの、リュート様?」

「なぁに?」

「あの、えぇと、まさか……」


赤茶色の瞳が、悪戯っぽく細まる。

「もちろん一緒に入るよ。お風呂に入ってる途中で、立ち眩み起こしたら危ないでしょ?」

「……うううぅ……」


恥ずかしさのあまり縮こまっている私に対し、リュート様は嬉しそうに笑う。

「ふふ、後顧の憂いも無くなりそうだし、カレンと一緒に過ごせるし、良いこと尽くしでちょっと怖いな」

「後顧の憂い……?」

「明日ちゃんと話すよ。ああそうだ」


リュート様に、さらに覗き込まれる。

「ねぇカレン。これから、改めてよろしくね?」

胸がきゅう、と締め付けられる。

これからは、この方と二人一緒……ずっと、一緒なんだ。


「……はい、よろしくお願いいたしますっ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ