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4-2

「……今の話は忘れていい。僕から断っておく」

「ま、待ってください!」


私の様子に、無理だと判断したのだろう。リュート様が執務机に戻ろうとするのを、慌てて止めた。

「で、でも……そのお話って実のところ……い、妹の私が技術部にいるってアピールしたいってことですよね……?」


技術部は確かに平民貴族問わず実力があれば入部できる。でも、貴族がまったくいないわけでもない。

ではなぜ私に声がかかったか?おそらくそれは向こう――宮廷魔導課には、父と弟がいるからだ。


そして、「肉親がいる組織で研究を受けた方が、聖女も安心できるのでは」と考える層がいることも理解できる。

今回の話は、上層部がその対抗策として実妹の私を連れ出そうとしている可能性が非常に高い。

本当に役に立つかは定かではないが、そうであるなら、私は行かなくてはならないはずだ。


「気にしなくていいよ」

リュート様は椅子に腰かけながら、あっさりと返してくる。

「もともと断ろうと思ってたけど念のため聞いただけ。聖女研究のせいでゼフトの担当班の皺寄せがこっちに来てる。キミまで取られたら仕事が回らない」


私が気に病まないよう気を遣ってくださったのだろう、そのお言葉に胸が温かくなる。

「ありがとうございます」

「別に。それより、しばらくゼフトの担当班の業務にも関わることになるから修羅場になる。覚悟して」


「はい!」

リュート様の優しさを原動力にすれば、どんな忙しさでも耐えられる気がした。



「すまん、サンビタリア。一件だけ断り切れなかった!」

「ゼフト、いい加減にしなよ?」


木枯らしが吹きすさぶ日、顧問室は外に負けないくらい空気が冷え込んでいた。

リュート様の冷ややかな視線が、ゼフト部長を貫いている。


「ただでさえそっちの報告書の査読やら週次報告会まで面倒見てるのに、この子に夜会に出ろとか正気?うちの班の進捗に影響出てるんだけど??」

「……リュート、お前寝てる?」

「三徹目だけど何?」

「すみませんでした」


一日二日程度の徹夜ならなんともないリュート様だけど、三日目ともなると流石に疲れと眠気が滲み出てくるらしい。いつもより人間味のある対応をしている。

この人も人間だったんだなぁ……なんて働かない頭で文導機に文字を打ち込みながら、ぼんやり思う。


ちなみに私も昨日は帰れず、カウチソファで仮眠だけだ。

四半期に一度ある上層部向けの定期報告が重なったのが一番痛い。さらに本来なら1~5班の分だけのはずが、7・8班の分の報告書の取りまとめもやっているのだ。

正直に言って、今日も帰れる気はしない。


「この子は僕の補佐官。僕の仕事の補佐がこの子の仕事なんだけど?」

「わかってるよ。……というわけでリュート、お前も道連れ」

思わず手が止まる。一瞬意味が分からなかったけど、理解した瞬間、全身から汗がどっと噴き出した。


これはつまり、リュート様も夜会に出ろということだ。

どうしよう。外出を原則禁止にされていて、滅多に外に出られないはずのリュート様を、引っ張り出すくらいの大ごとにしてしまった。


リュート様も想定外だったらしく、右手で顔を覆うようにしてこめかみを押さえている。

「……はぁ、そう来るわけ」

「本当にこれだけは躱しきれなかったんだって。再来週王城で開かれる国主催の聖女様の誕生パーティー。これだけだ」


失礼かと思ったが耐え切れず、自机を立ち口を挟む。

「部長、わ、わたし、頑張りますから、大丈夫ですから……!」

この忙しさの中で、リュート様を更に煩わせるなんて無理!!!半泣きになりながらゼフト部長に訴えるが、にこにこと受け流される。


「うんうん、サンビタリアは偉いねぇ。リュート、というわけで腹括れ。代わりに当日のサンビタリアの負担は軽くしたから」

「……具体的には?」

「参加者として振舞うのはリュート、パートナーはローゼス。サンビタリアは護衛官として二人につくだけでいい」


言われた内容に正直ほっとしてしまう。技術部に来る前は護衛官部隊だったので、慣れた配置は私としてはかなり助かる。

けど、それではアピールにならないのでは……?

「よろしいのですか……?」

「お前の顔を知っている人間だけが対象らしいからな。問題ない。代わりにリュートとローゼスには思いっきり目立ってもらうが」


確かにリュート様とリーリは顔立ちが非常に整っている。本気で着飾れば会場の視線を集めるのは容易いだろう。

こんな状況じゃなければ、そんなリュート様のお姿を見れる絶好の機会と喜べたけど……。


「リュート、やれるな?」

「…………わかった」

盛大な溜息を一つ吐いて、リュート様は了承を返した。



「カレンさんすごい!すごすぎます!この髪型めっちゃ可愛い!」

「リーリが可愛いからよ、私、自分に髪結いの才能があるのかと錯覚しちゃったもの」

ドレスアップしたリーリが驚くほどかわいくて、馬車の中で会話が止まらない。


一応、私は伯爵令嬢である。リーリを夜会に出すなら、手を抜くわけにはいかなかった。

職業柄流行りなどにいささか心配はあったが、7班にいた商会出身の方に相談に乗ってもらい、この2週間で流行りを学び髪結いの練習を重ねた。

結果として大満足の出来栄えで、とてもほくほくしている。

お姉様やリーリのような美しい人をさらに磨く作業って、どうしてこんなに楽しいんだろう。


「……でもカレンさん、私、見ちゃったんです」

「リーリ?」

「私のパートナー様……なんかもう、目の保養通り越して眩しかったんですけど、隣に並ばなきゃダメですか……?」

「ああ、うん、凄かったわね、リュート様……こう、色々と……」

思わず遠い目をしてしまう。


本当に凄かった。眼鏡を外して、前髪を上げて、流行りの夜会服を着ただけ。

それだけのはずなのに、あの破壊力は一体……。


「普段が普段だったんで、本当に驚きました……あれ、すこしだけお肌整えました?」

「本当に目元とか寝不足が分かるところだけで、ほとんど素ね……」

「うそー!?」

今は男性陣だけで打ち合わせがあるとかで、リュート様は部長とともに別の馬車で移動している。

そのおかげで二人きりのため、互いに遠慮なく言葉を交わす。


そうこうしているうちに、馬車が王城にたどり着く。

パートナーであるリュート様に引き渡すまで、エスコートは護衛官として軍服をまとう私の役目だ。

すばやく、しかし上品に見えるよう細心の注意を払い馬車を降り、手を差し出す。


「お手をどうぞ、リーリ」

手の震えは、自覚と同時に状態異常回復術式で打ち消した。

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