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「ストックリー、お前今から医務室行け」


翌朝、ゼフト部長が朝一で顧問室に来て言う。

聞けば、昨日の襲撃後、そのままこちらに来てしまったので、その分の補完らしい。

「ええと、私はこの通り元気ですが……」

「駄目だ。規則だって言ったろ。あと何より……お前、昨日睡眠薬入りの茶飲んだろ」


ガタ、とリュート様が立ち上がる。

あの時のシュウさんと同じ、信じられないものを見る様な目で私を見た。

「なに、それ……?」

「茶器の反応は追えなかったらしいが、マルグリットとシュレインが証言してる。念のため診てもらえ」


リュート様の顔が怖くて見れず、少し下を向いて答える。

「の、飲みました、けど……そのまま解毒しましたし、体感的には問題も」

「あとこれ」

そんな私に、部長から数枚の紙が渡される。

私が行った社交について、ベスさんが書いた護衛報告書の一部だ。


法則性を見出そうにも、行き先もタイミングもばらばら……なんだろう、これ?

首を傾げていると、部長が大きな溜息を吐いた。

「補足欄見ろ。それで分かる」


補足欄?と思い見ると、同じ文言が書かれていた。

『嫌がらせ目的と思われる飲食物への異物混入可能性あり』

「……あ」

社交場で学園の同窓生達から、私が『お酒に酔い過ぎて恥をかく』ように見せかけるため、酩酊薬や興奮剤といった薬を盛られたことが幾度かあった。

あれらについて、ベスさんが大ごとにならないように、しかし確実に記録に残してくださっていたらしい。


「その辺全部引っくるめて検査だ。あと襲撃後の診察はそもそも規則。とっとと行ってこい」



カレンが顧問室から出て行った後、ゼフトが今度は僕に向き合う。


「リュート、しんどいのは分かるが進捗に影響出過ぎだ。午前中レオナルドと昨日の件で打ち合わせた後は、業務と研究に集中しろ。今日明日、ストックリーはこっちの補佐官執務室で預かる」

「……わかった」


ゼフトの一言に、まあそうだろうなと思うしかない。

最近はカレンの件で色々ありすぎて、顧問として期日こそ超過したものは無いが、それでも成果物は最低限になっている。

――こんなことをカレンに聞かれたら、あの子は更に自分を責めるだろうな。

つい、そう自嘲してしまう。


「正直……ちょっと助かった。いま、カレン相手に平静保てる感じじゃなかったし」

「薬盛られて黙っていられりゃ、そうだろうな」

「それだけじゃないよ」

「……あ?」


投げやりな気分で、昨日カレンに昏睡系の術式を常用していると言われたと話した。本人はなんでもない事のように言っていたので、ゼフト相手なら言っても問題ないだろう。

ゼフトがみるみるうちに表情を強張らせる。どうやら自分の感性が正しかったらしい。


そのまま少し何か考えていたゼフトが、口を開く。

「……医務室に伝えてくる。あとそれ、お前の前だと睡眠導入系すら使わないんだな?」

「そうだけど、なに?」


ゼフトが僕を真っ直ぐみる。

「交渉材料にしていいか?」

「は?」

「お前の行動範囲の緩和だよ。最近のアレソレで、ストックリーに対して同情的な層が増えてきた。精神安定のために夫との同居が要るって話したら、今度こそ通るかもしれない」


ゼフトの言葉に、唖然としてしまう。

あんなに、何度も訴えかけても通らなかったのに……?

僕の表情から、考えが読めたのだろう。

ゼフトは苦笑いした。

「皮肉だな。この間の襲撃……王都での準軍事行動があったおかげで、宰相や王太子レベルにまで話が上がった。国の上層部がカレン・ストックリーという人間を認識し始めたからこそ、話が動く」

「……同情で話が動くなら、新婚早々の夫妻が同居できない事自体に同情してほしかったんだけど」


今まで散々通らなかったそれについ恨み言を言うと、ゼフトの苦笑が一段と深くなる。

「同情っつーか……『聖女の実妹』で『叙爵された国家機密技術者の妻』で、なおかつ本人も顧問補佐官っていう『国の中枢研究の情報保持者』である人物が、昏睡術式使う必要があるくらい重度の不眠って字面想像してみろ。ヤバいから」


――結局、カレンはこの後、自己治癒を一切使用していない状態での検査が必要と判断され、三日間の検査入院となった。

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