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47-2

――こんなにも、誰かを不快だと思うのは初めてだった。

拳を震わせながら、言葉を続ける。

「リュート様がどれだけ優しいか?知ってます。どれだけ抱え込む方か?知ってます。どんなに素晴らしい方か、全部、全部……知ってます!」


リュート様が、どれだけ苦しんでいると思ってる。

安心できるはずの我が家ですら薬を盛られる恐怖を、あの方が感じた絶望を、何だと思っている。


涙が出そうになるが必死に堪える。

毅然とした態度で、言葉で、切り捨ててやらないと気が済まない。


「あんなに優しくて素晴らしい方を、貴女は傷付けた。……貴女にだけは、何があっても渡しません」



(三人称です)


聖堂局。

アウリアド王国内の月神・太陽神教会の全体統括をしている機関。

そこの応接間の一つで、ゼフトとレオナルドは待たされていた。


用件は他でもない。マルグリット――侯爵家が裁き、罪人修道院に入れたはずの女が、何故か勝手に修道院から異動していた件だ。


「あの女、何処にいる……」

「王都のどの教会にいるか、資料探すっつってかなり待たされてるな」

「経緯説明も『書類通り』の一点張りだったな。……我が侯爵家が侮られたと判断していいか?」

レオナルドは昼夜問わず走り続けた疲れが出たらしい。

指で目頭を揉んでいる。


侯爵家の決定を無断で覆すなど、許される事ではない。

レオナルドが単騎での王都行きを即時決行したのは、定期報告でマルグリットの異動を知ったからだった。


午後に技術部棟に到着し、簡単に打ち合わせと護衛官の配置を待つ時間はあったが、ほぼ休まず動いている。

領地騎士団長であっても疲労が溜まるのは致し方ない。


同行している旧友のゼフトも、嫌な考えを拭いきれなかった。

マルグリットの異動、しかもその先が王都。

先々週のカレンの拉致未遂事件、そして今通っている刺繍会……。

あまりにも、タイミングが良すぎる。

異動先の教会がどうか違う教会であってほしいと思っていたら、聖堂局の職員が戻ってきた。

説明を受ける前に、書類に記載された教会名が視界に入って一気に血の気が引く。


「カイル!ベスにすぐ連絡してストックリーを連れ戻せ!」

「了解」

慌てて振り向いて指示を出すと、壁際で待機姿勢をとっていたカイルが耳元を押さえた。


「ああ、ベス。俺だ…………は?待て、もっかい言え」

表情がどんどん険しくなっていく。

聖堂局員は不思議そうにしていたが、事態を察したゼフトとレオナルドは表情をだんだん硬くしていく。


「……部長さん。いま報告いいか」

「すげぇ聞きたくねぇけど言ってくれ」


通信を終えたらしいカイルは、聖堂局員を注視しながら口を開いた。

「教会で襲撃あり。ストックリー男爵夫人は無事で無傷。ただし、マルグリットと名乗る修道女見習いに刃物を向けられ、暴言虚言を受けたそうだ」


痛いくらいの沈黙が、一瞬応接室を包む。

レオナルドが、ゆっくり腕組みをしてゼフトの方を向く。

そのこめかみにははっきりと青筋が浮かんでいた。

「……ゼフト、お前は戻れ。移動と護衛は近衛を呼ぶ」


大貴族たるレオナルドの護衛要請とあれば、近衛は間違いなく飛んでくるだろう。

ゼフトは頷くと、帰還準備のためカイルに視線で合図を送り、立ち上がる。


その様子を見ていた聖堂局員は、真っ青な顔で「上長を呼んできます」と呟き、廊下に走っていった。

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