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47-1

刺繍会の最終日、無事に目標とする作品数が仕上がり、皆で胸を撫でおろす。

新参者で最年少の私は、皆さんにご挨拶した後、少しだけ居残って片づけを手伝わせていただいた。


「ストックリー様、よければ少し、お茶を召し上がっていかれませんか?」

マルグリットさんが、優しく声をかけてくださる。

シュウさんと副長様にもう少し残る旨を伝えると、教会内は近衛の方がいいだろうからと、副長様が付いてきてくださることになった。

三人で奥の調理場に向かう。


「申し訳ございません、本当なら食堂にご案内するべきでしょうが……」

「いえいえ。こういうところの方が気楽にお話しできますし」

調理場の卓に椅子を持ってきて座り、一口お茶を飲む。

……そのまま、お茶を飲みながら静かに話した。


一杯分飲み終わる頃、調理場からすぐのところにある勝手口をノックする音がした。

マルグリットさんがぺこりと私に頭を下げ、勝手口に向かう。


どうしようかな、と思っていたら、悲鳴が聞こえた。

「きゃあっ!?な、なんですか貴方たち!!」

勝手口を見ると、マルグリットさんの腕を男が掴んでいる。

シュウさんとベスさんに異変を伝える魔導具を起動したあと勝手口に走ろうとしたら、横をすさまじい速さで副長様が駆け抜けていく。


男はマルグリットさんを引き倒し、調理場の中を覗き込む。

私と目が合った瞬間、男が叫んだ。

「――いたぞ!」


どうやら私狙いだったらしい。

そのまま何人かが押し入ろうとしたが、副長様が風系の術式で群がる男達を吹き飛ばした。

まずは勝手口から彼らを離そうという判断らしい。


吹き飛ばされたうちの二人が、黒い影に首根っこを掴まれる。

「よぉ」

シュウさんが、掴んだ男の身体を持ち上げ地面にたたきつけた。

残った男たちも、吹き飛ばされた後の態勢が整いきる前に、副長様とシュウさんの二人に沈められていく。


マルグリットさんが勝手口のそばで震えていたので、声をかける。

「マルグリットさん、大丈夫ですか?」

「え?あ、あの、腰が抜けてしまって……っ」

うずくまってしまった彼女を助け起こそうとした瞬間、視界の端に光るものが見えた。


――対処しようとするより早く、シュウさんがマルグリットさんの手を捻り上げ、頭を地面に押し付けていた。

マルグリットさんの手から、果物ナイフが滑り落ちる。


シュウさんが、どこまでも冷淡な顔で彼女を見下ろした。

「動くな」


それを見て、私はゆっくり息を吸う。

そして吐き出し、マルグリットさんに話しかけた。

「さっきのお茶の睡眠薬、わざとだったんですね」

「っ!?」

「はぁ!?」


地面に押し付けられたまま驚くマルグリットさん以上に、シュウさんが信じられないものを見たような顔で、私を見る。

「お前っ……馬鹿野郎!!何で近衛や俺らに直ぐ連絡しなかった!?」

「すみません、何かの間違いかと思いまして……」

えへへと苦笑いしていたら、マルグリットさんの唇が震える。


「……えしてよ」

「え?」


うまく聞き取れなくて思わず聞き返すと、マルグリットさんは橄欖色の瞳を私にはっきり向ける。

頬に土が付いていても、涙で濡れた顔は舞台女優のように美しかった。

「返してよ!リュート様は、私のなのに……!」


…………リュート様?


思わずシュウさんと顔を見合わせてしまう。

シュウさんも言葉の意味がわからなかったのか、戸惑った顔を浮かべている。

「何言ってんのこいつ?」

「シュウさん、言葉を選んで……」


そんな頓珍漢なやりとりをしていたら、マルグリットさんが怒鳴り始める。

「言ったでしょ!?リュート様は優しすぎて、素直じゃないの!だから私、ずっとずっと、あの人が素直になれるように手伝ったのよ!食事中も寝入りの時も、ずっとお茶を淹れてあげて、声をかけ続けて……なのにリュート様、私が政略結婚しそうって話しても、私を案じて身を引こうとして!」


マルグリットさんのお話から察するに、おそらくリュート様が軟禁される前、侯爵家にいた頃の話だろうか。

それでもリュート様からそんな方がいたという話は聞いた事が……。


――ひとつ、嫌な仮説を思いついた。

動悸がする。本当なら、これ以上言葉を交わすべきではない。

わかっていても、どうしても確かめたくて口を開く。

「まさか、貴女……トゥルペ侯爵家に行儀見習いとして滞在していた方ですか?」


私の言葉に、勝利を確信したような顔でマルグリットさんは笑う。

「そうよ!どうしても素直になれないあの人の気持ちを、想いを引き出してあげたの!それなのに侯爵家の連中が私達の邪魔をした。私達は想い合っていたのに!!証言すら私の片想いに捻じ曲げられて……!」


マルグリットさんの言葉を信じられない気持ちで聞きながら、リュート様の言葉を思い出す。


――屋敷で盛られたのは酩酊薬、犯人は行儀見習いで来てた遠縁の貴族子女。動機は『ずっと憧れてて思い出が欲しかった』、だってさ……笑えるよね――


リュート様が、他人のお茶を飲めなくなった、きっかけの事件。


「だから、リュート様は本当は私のものなの!返して、返しなさいよ!!」

まだ何か叫んでいるマルグリットさんの姿に、我慢しきれず反射的に口を開く。


「黙りなさい」

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