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46

(三人称です)

トゥルペ侯爵家。


辺境領3つと接するアウリアド王国最大の緩衝地帯を統べるその家は、国防の要。

リュートの養家でもあり、彼が独立しストックリーとなった今も縁のある家。


領地の位置から、この家は政治的に絶対的な中立を求められる。

そのため当主となったリュートの養兄レオナルドは、中央の政治には関わらず、基本的には領地騎士団長および領主として領地で多忙な日々を送っている。

……が、この日はそうではなかった。


「旦那様!お待ちくださいませ!」

家令の静止も聞かず、レオナルドは愛馬にまたがる。

妻は見送るつもりなのか、家令の隣で静かに立っていた。


レオナルドは二人を一瞥すると口を開く。

「通信士からゼフトに連絡を入れろ。馬に補助魔導具を纏わせ、昼夜問わず走り続け最速で辿り着くと」


「先んじてお伝えすることは御座いますか」

そのまま走り出そうとしたレオナルドに、妻である侯爵夫人は静かに聞く。

「『王都に着き次第、聖堂局に共に向かってほしい』と伝えてくれ。それで用件は分かる」

レオナルドは妻と家令を見て、少しだけ表情を緩めた。

「急にすまない。苦労をかけるが宜しく頼む」


いくら領地騎士団長とはいえ、侯爵家当主が単身で強行するなど本来ならばあり得ない。

しかし妻と家令は頭を下げ、彼を見送る。

「王都のタウンハウスにも連絡しておきます。滞在はそちらに」

「ありがとう、では、行ってくる」


レオナルドはそう言うと、今度こそ馬に発進の合図を送り、駆け出した。


(一人称に戻ります)


「兄さんが来る?なんで?」

作業をしながら話を聞いていたリュート様が、執務机から顔を上げゼフト部長を見る。

部長は困りきった顔をしていた。


「……用件の予想はつくが、確定するまで言いたくない」

「侯爵閣下が単騎で、しかも馬に魔導具まで着けて大急ぎで来るなんて、どう考えてもおかしいでしょ」

「それは、そうなんだけどよ……」


レオナルド様がそこまでなさるなんて、いったい何があったんだろう。

そう思い首を傾げながらも、自分の仕事を片付けていく。

お二人の話に耳だけ傾けて作業をしていたら、部長の声がした。

「とにかく!俺は外出時、護衛官が帯同する必要がある。だからレオナルドは一瞬技術部棟に寄るが、そのまま俺と馬車移動する。だからレオナルドを見かけても驚くなよ」

「……分かった」


納得していなさそうな声色ながらもリュート様が了承の意を返すと、ゼフト部長が退室して行った。

リュート様が背もたれに身体を預け、溜息を吐く。

「騒がしくてごめん。集中したかったでしょ」

「いえ!レオナルド様、どうされたんでしょうね……」

リュート様が仰っていた通り、侯爵閣下が単騎で移動されるのはよっぽどの事だ。


リュート様は肩をすくめる。

「さっきのゼフトの言い方だと、まあ、確定したら教えてくれるみたいだけど……さて、仕方ないから仕事しようか。明日で刺繍会も最後だもんね」


今回の刺繍会は、夏至祭の奉納品や、蚤の市用の小物作りも兼ねている。

明日はいよいよ夏至祭直前。そのため明日で制作をひと段落させて一旦この会は終わりとなる。そして時期をみて、また次の刺繍会が行われる。


そのため明日の刺繍を頑張りたくて、今日は業務に集中したいと話したことをリュート様は覚えてくださっていたらしい。

心が温かくなり、思わず笑みがこぼれる。

「ありがとうございます。あの……今日はちょっと、頑張りたいです」

「うん、頑張ろ」


リュート様と微笑みあい、業務を再開した。

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