幕間(45話後)
「顧問さん、ちゃんと言われた事、実践してるみたいじゃん?えらいえらい」
刺繍会から数日後、シュレインが顧問室に入ってくる。
もう夜中と言って差し支えない時間、カレンは既に退勤した後だ。
緩い笑みを浮かべて雑に褒めてきた黄緑頭を、つい訝しんで見てしまう。
「……なんで分かるの?」
「アンタら二人の会話聞いてたら分かるよ。アイツ、ちゃんと自分の考え話せてる」
その顔はまるで、妹を心配し慈しむ兄の様だった。
例の事件の翌日、あれだけの怪我を負ったにも関わらず平気で館内巡回勤務をしているシュレインを見つけ、時間をもらった。
カレンの状態も全部説明して、どうしたらいいか相談したのだ。
「顧問さんはどう考えても、俺みたいにボケて文句言わせるとか向いてないからさ、上手くいくか心配だったけど良かったよ」
「……そう」
頭ではその通りだと理解しているが、思わず半目で睨んでしまう。
シュレインに言われたのは、「とにかくカレンの考えや意見を聞くこと」「内容ではなく、『意見を言えたこと』自体を褒めること」だった。
効果はすぐに出た。
僕の機嫌を損ねないように気を遣い始めていたカレンが、僕が喜ぶならと自分の意見を言うようになったのだ。
結局僕が喜ぶかどうか、という基準であることは問題だが、それでも前進したと言えるだろう。
物凄く複雑だが、やはりこの男に相談して正解だったと思う。……物凄く複雑だが。
そんな僕の考えを知ってから知らずか、シュレインは苦笑いを浮かべる。
「あとは、あの自己治癒癖だなー。この間の診察でも魔力残留値、やっぱ悪くなってるらしいし」
「……っ」
その言葉に背筋が凍る。
魔力残留値とは、その名の通り魔術を施した際に体内に残った魔力残滓の値だ。
常人なら検査しても値すら出ないことが多いが、魔術士――特に、回復・支援術士は自身に軽々に術を施すので、残滓が溜まり、魔力残留値が検出できるまでになりやすい。
あまり溜まると内臓の機能不全を引き起こしたりと危険な状況になりやすいため、回復・支援術士は定期検診・検査が義務付けられているくらいだ。
「顧問さんも知ってると思うけど、外傷の回復はあんまり魔力残留値に影響しない。だから使ってるとしたら頭痛吐き気とか睡眠導入とかそっち系だと思うんだけど……アンタの前だと使ってないんだっけ?」
「うん、使ってない。頭痛の方は痛み止めとして使ってるの見たことあるけど、睡眠導入は見た事無いよ」
「うーん、アンタの前だと使わなくても寝れんのかもね」
笑いながら言うシュレインの言葉を、素直には喜べない。
それはつまり、僕の前以外では眠れていないということだ。
確かに、最近のカレンは寝不足のように見えることが多い。数値が悪くなってきた以上、早急に解決しないと、あの子の身体に障る。
「……今度、カレンと話ししてみるよ」
「あいよー。まあ、ヘマしそうだったらまた相談してよ。上手くやる方法、一緒に考えるから」
「うん、ありがとう」
シュレインはニカリと笑い、ヒラヒラと手を振って退室して行った。
それを見送ったあと流しでお茶を淹れ、席に戻る。
「…………はぁ」
カレンが淹れた方が美味しい。
同じお茶葉なのに、どうしてこんなに違うんだろう。
明日、もう一回淹れ方を教えてもらおうと思いながら、仕事に取り掛かった。




