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45-1

あれから約一週間後。


「4班、進捗」


「はーい。まず、年内に応急対応を行った室内灯用化学反応素材の案件を起点とした、第三研究所と進めていた励起条件および反応閾値に関する新規調査について、詳細検証と数理モデル化を含む最終報告書の作成が完了しました。また水門用の術式の改良案について――」


会議室にはリュート様と、3班長、4班長と5班長、そして私。

毎週やっているはずの週次報告会なのに、随分と久しぶりに感じるなと思いながら、文導機に議事録を打ち込む。


先日の件については、班長達には襲撃があった旨のみ周知され、詳細は伏せられた。リーリ以外の一般班員は襲撃を受けた事すら知らない。

そのため、技術部棟の中は驚くほどいつも通りだった。



「カレン、今日は刺繍会だよね?……本当に行くの?」

リュート様が心配そうに声をかけてくださる。

前回の刺繍会の帰りにあれだけ派手に襲われたのだから、当然だろう。


――行かない方が、リュート様は安心して笑ってくださるかな?

そう思った瞬間、リュート様に手を握られた。


「カレン、キミが決めていいんだよ。どっちでも、僕は尊重するから」

優しい微笑みに促され、戸惑いながらも口を開く。

「あの……参加、したいです。伯爵夫人をはじめ皆さんお優しい方で、とても温かく迎えてくださるので」


いつも、外交的な意味合いの強い相手や同世代がいる率の高い社交だが、あの刺繍会は違った。

年上のご夫人ばかりで、いつもよりいい意味で肩の力が抜けるし、逆に、諸先輩方に恥じないよう努めようと勝手に背筋も伸びる。

本当の意味で"貴族夫人"らしい振る舞いを求められるあの場は、存外居心地が良かった。


リュート様が目を細める。

「うん。カレンが、自分の気持ちを教えてくれて、嬉しい。気を付けて行ってきて」

「は、はい……!」


……気のせいだろうか、最近、リュート様によく意見や考えを求められている気がする。

リュート様の言う事を聞くより、自分の意見を伝える方が喜んでくださるので応えているけれど……これで、いいのかな?

普段はご自分の考えやペースを大事にされる方なので、正直、少し心配だ。


そう思いながらもいったん着替えに家に戻り、身支度を終えた後もう一度顧問室に戻る。

リュート様に声をかけてから、馬車寄せに向かった。


一台の馬車と、並走用の馬が見えてくる。

「ごきげんよう、夫人」

「おーっす、お疲れー」

近衛の……先日の副長様と、シュウさんが声をかけてくださった。

副長様は馬の手綱を掴んでいる。馬車と並走するのは副長様らしい。


「こんにちは、今日はよろしくお願いいたします」

そう挨拶を返して、そっと周囲を見渡す。

――御者席には誰も座っていない。……と、思ったその時。


「カレンちゃんおはよー!って、もうすぐ午後よね」

くすくすと笑いながら、ベスさんが後ろから声をかけてくださった。

慌てて振り向くと、優しい笑みを浮かべながらいつも通りの足取りで歩いている。


「心配させちゃってごめんね、もうだいじょ……あらあら」

気が付いたら、ベスさんに思いっきり抱きついていた。

ベスさんが苦笑いすると、ハンカチを取り出す。


「ベスさん、よかった、よかった……!」

「こーら、折角のお化粧が落ちちゃうし、ドレスも乱れるわよ」

私の滲んだ視界を取り払うように、目元を拭ってくれる。笑う姿は、本当にいつも通りで……。


ずっと心配だった。

ベスさんだけはずっと会えていなかったし、シュウさんに聞いても「治療と回復中」の一点張りで、お見舞いも行かせてもらえない。

私の初期処置に問題があっただろうか、なにか見落としていて、もっとひどい容態になっていないだろうか。

そんなことをこの一週間、ずっと考えていたのだ。


「ふふ、またカレンちゃんの護衛が出来て嬉しいわ。今日から、またよろしくね?」

「はい、はいっ……!」

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