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瞼越しに、明るい陽の光を感じる。
寝返りを打つと、最近慣れてきた仮眠室の夏掛けの感触がする。
――あれ、いま、何時?
慌てて跳ね起きると、寝台に寝ていたのは私だけだった。
窓を見ると、カーテン越しに眩い陽の光が差している。
「ね、ねぼう……っ!」
泣きそうになりながらベッドから出たタイミングで、仮眠室の戸が開いた。
「おはよー!カレンちゃん!」
「レン!起きた!?」
セリナさんは朗らかな笑顔で挨拶してくれ、リーリが泣きそうな顔で駆け寄ってくる。
そのままリーリにぎゅうと抱き締められた。
「レンっ、く、詳しくは教えてもらえなかったけど、昨日、大変だったって……!」
「……心配してくれたの?ありがとう、リーリ」
私の肩に顔を埋めて泣き始めてしまったリーリを、そのまま抱き締め返す。
優しくて、可愛いリーリ。
笑顔の似合う友人に、どうにか笑って欲しくて必死に宥める。
リーリとくっついていたら、セリナさんも仮眠室に入ってくる。
「カレンちゃんは今日はお休みか、午前休だって〜。だから寝坊じゃないし、大丈夫だよ」
「あ、ありがとう、ございます……?」
休みって……昨日なんにも業務をしていないのに、今日も休むわけにはいかない。いろいろ整ったら、業務を始めよう。
でも、それよりも……。
「あの、リュート様は?」
戸越しに見えている執務机には、誰も座っていなかった。
部屋の主であるリュート様は、何処に行ってしまったのだろう?
セリナさんがニマリと笑う。
「リュート君は部長室だよ〜。でも、カレンちゃんは、これから私達とまず朝ごはんでーす!」
◇
「……以上が、昨夜の王宮会議の内容だ。詳細はブノワが議事録まとめてくれてっから、そっち読んでくれ」
ゼフトがそう言って、応接用のソファに身を預けた。
仮眠はとったと言っているけれど、やはり疲れているのだろう。いつもより顔色が悪いし、ブノワさんも珍しく少し姿勢が崩れている。
ウェンが気遣わしげに、そんなゼフトとブノワさんにお茶を淹れた。
話の内容は大体分かった。
今後はカレンの外出に、近衛が一人付く事。それ以外、カレン本人の生活には特に変化は無い事。
ただ……。
「王太子に宰相って、随分大物が出てきたね」
「王都でここまでやられたらって感じだな。報告だけは小まめに上げておいて助かった。おかげで宰相閣下がほとんど庇ってくれたぞ」
今までの社交や他国からの接触、襲撃について、ゼフトや魔術院長、治安院長はきちんと報告を上げていた。
一歩間違えば外交問題に発展するそれについて、実は宰相閣下まで、きちんと報告が届いていたらしい。
どうして作戦行動まで許すことになったのか、何故王室や近衛に今まで共有がなかったのかなど経緯については、宰相閣下が説明してくれたそうだ。
ブノワさんがお茶のカップを置いて口を開く。
「言い方は悪いですが、ウチは研究部署です。襲撃予測は治安院や軍本部の仕事であって、技術部ではありません。閣下や各院長もそれは分かっているんでしょう」
「ウチはあくまで被害者ってことでお咎め無しだとよ。」
欠伸を噛み殺しながらいうゼフトを、ウェンが心配そうに見る。
「ゼフト。対外対応については、何か変わったんですか?」
「ん?あぁ、俺んとこにくるアレか?表面上は変わらず、外交官の真似事してろってさ。ったく、転職した覚えはないんだがな……」
ゼフトが苦笑する。
カレンの身柄引渡し要求などについて、他国の外交官からしたら、折衝や根回しなどで普段から動き回っているゼフトの方が、外交筋からの接触より魅力的に見えるのだろう。
直属の上司を抱え込める可能性があるというのも大きい。
「ただし、返答は宰相府指定文言に統一していいってよ。報告書は最短で読んでくれるし、今後は王太子殿下まで目を通してくれるとさ」
表の外交責任者は王太子殿下だからな、と伸びをしながら答えるゼフトに、ウェンがお茶のお代わりを用意する。
それを眺めていたゼフトだが、不意に僕の方を見て真剣な表情をした。
「……リュート。ここまで来たら多分、強硬派は抑えられる。多分な。宰相閣下と王太子殿下がこっちに注目してるんだ。下手なことはしてこない」
「わかった」
「カイルはまだ宮廷情報局の長が誰かは教えてくれねぇが……この機会に、長を突き止めてみせる。もうちょっと待ってろ」
宮廷情報局――強硬派の主団体。
書類上の局長が本当の長ではないなんて、公然の秘密だ。
しかし、では本当の長は誰なのか?それは国の上層部か上位諜報員しか知らないらしい。
ずっとずっと、結婚すると決めてから、ゼフトに探ってもらっているのに、まだ分からない。
それでも……知らなければならない。
僕が、カレンと安心して暮らすために、強硬派に対抗できる手段を徹底的に用意しなければならない。
「ありがとう、ゼフト」
礼を言いながら立ち上がり、部屋を見回す。
「カレンがそろそろ起きるかもしれないから、部屋、戻るね」




