幕間(ブノワ視点 42・43話後)
王宮の会議棟。
帰りの馬車の準備を待っている間、廊下から見えた空は白み始めていた。
夜通し会議をしていたのだから当然だ。
むしろ王都においてあれだけの工作があったにもかかわらず、これだけ短い時間で会議を終えられたのは大したものだ。
自分は後ろで議事録を取っていただけだが、ゼフト部長を始め会議に参加し発言していた面々の優秀さに改めて驚く。
「大丈夫か?ブノワ」
部長が疲れ切った顔で、それでもこちらを心配して微笑みかけてくれる。
その様子に、会議が始まる直前の事を思い出した。
◇
ストックリーさんの聴取が終わった後、王宮で「王都における作戦行動を許した事」に対する対策会議があるという事で、部長と自分が登城することになった。
郊外とはいえ20人規模の戦闘があり、市街地では火災偽造や妨害工作……。
王都で準軍事行動が勝手に行われたという事実に、国が危機感を抱くのは当然だった。
セリナさんには明日から対外対応をお願いすることになるし、ウェンさんには技術部棟にいてもらわないと実務が死ぬ。自分が同行することもまた道理だ。
「こちらです」と案内してくれた近衛に続いて部屋に入ると、会議室は恐ろしいほどの緊張感に包まれていた。
座っている面々も、錚々たるものだった。
治安院長や近衛総隊長だけではない、あれは――。
と思った瞬間、ゼフト部長らしくなく、一礼して入室した後、そのまま真っ直ぐ近衛総隊長のもとに向かう。
不味い、止めないと。……そう思った時にはもう遅かった。
「これは近衛総隊長殿!是非お会いしたかったんです。先程、私の部下でもあるストックリー男爵夫人……今回の拉致未遂事件の被害者女性が、そちらの若造三名に鼻で嗤われまして」
部長はニコニコと朗らかに、近衛総隊長に向かって言葉を続ける。
「そちらの若手の教育、どうなってます?」
――部長、このタイミングでぶっ込むとか本当に怒ってるし疲れてるな、なんてつい現実逃避してしまう。
確かにアレは、あの近衛三人の馬鹿にするような……いや、ストックリーさんを馬鹿にした嗤いは本当に洒落にならなかった。
自分ですら一瞬何が起こったか理解できず、理解した頃には腹が立って仕方なかったのだ。
部長の怒りは相当だろう。
近衛総隊長も、言われた内容があまりに異次元すぎて咀嚼に時間がかかったらしい。
「…………近衛の者が、被害を受けた貴族女性を、笑ったと?」
「はい、そちらの若造三名が」
ガタン!!と大きな音を立て総隊長が立ち上がる。
その表情は憤怒に染まっていた。
「……その愚か者共は?」
「他の近衛の方や副官殿、小隊長殿が制圧してくださいました。小隊長殿など、怒りのあまりもう少しで抜剣するところでしたよ」
今の部長の言葉で、軍施設内にも関わらず上官が抜剣しかけるほど酷い振る舞いをした、という事実が強調された。
近衛総隊長は怒りのあまり眩暈がしたのか、奥歯を噛み締め首を振る。その後、部長に一礼した。
「技術開発部部長殿。この度は近衛の者が失礼しました。この件は必ず処罰しご報告させていただく」
「ありがとうございます。我々としましても、後ほど正式な文書を送らせていただきます。ご承知おきください」
近衛総隊長にそう伝えた後、部長は会議室の上座に身体を向け、勢いよく頭を下げた。
「御身にご挨拶もなく、勝手な振る舞い申し訳ございませんでした」
部長にそう言われた男性は、ゆったりと背もたれに身体を預けていた。
歳は部長より若く、確か30代半ば。稲穂のような黄金色の髪と、空色の瞳の美丈夫。
最も上座に座るその男性の隣には、軍や国勢庁、その他行政組織を束ねる長である、宰相閣下が座っている。
つまりこの男性は……宰相閣下より、立場が上なのだ。
背もたれから背を離した男性は、両肘を机に置き、手を組むと顎をのせる。
「よい。お前が怒るのは道理だ。……近衛総隊長、報告書および処罰内容を後で提出しろ。併せて若手の教育課程改善案もだ。陛下の威光を近衛が汚すなど、許されないと思え」
「承知いたしました、殿下」
近衛総隊長が男性――王太子殿下に恭しく頭を下げる。
それを受け、殿下は小さく頷くと口を開く。
「では、これより安全保障会議を行う。王都でこれだけの規模の作戦行動を許したことは、国防として由々しき事態だ。議事進行は宰相。皆、よろしく頼む」




