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カレンから穏やかな寝息が聞こえてきたので、目を開き様子を窺う。力の抜けた寝顔に、心の底から安堵する。
身体から一気に力が抜け、代わりに疲労感が襲ってきた。
普段なら、徹夜しようが疲れなんて全く感じないのに。
慣れない人間に会って、慣れない事をしただけでこの有様だ。
……情けない。そう思いながら腕の中の愛しい存在を抱き締める。
温もりを堪能しながら、先ほどのやり取りを思い出す。
いつものカレンなら、僕が休めと言っても「でも」とそのまま僕の心配を口走り、「やらせてください」と言ってきていただろう。それなのに……。
『……承知しました、リュート様。お心遣いありがとうございます、本日は休ませていただきます』
――血が凍るとは、こういう事を言うのか、と思った。
僕の言う事を優先して、自分の気持ちは『僕のため』という免罪符がないと出そうともしない。あんなカレンは初めて見た。補佐官になりたての頃よりもっと酷い。
最近ようやく、少しずつカレンの気持ちと言葉が出始めていたのに。
思わず奥歯を噛み締める。
あの同級生だという連中のせいで、カレンの精神は当時に引き摺られてしまったのだろうか。
やっぱり、殺しておけばよかったと思ってしまう。
カレンという守るべき存在が腕の中に居なかったら、シュレインが視界を遮る様に立ってくれなかったら、激情のままに魔力で潰していた自信がある。
――魔力紋は覚えた、今からでもやっぱり……。
「……んぅ、……リュート、さま……」
カレンの声と、胸元に頬擦りされた感触で我に返った。
夢を見ているらしく、控えめに微笑んでいる。
ああ、こんなに自然で、穏やかに笑っているカレンを見るのはいつぶりだろう。
そう思った瞬間、目頭が熱くなった。
カレンが眠っているのをいい事に、堪えもせずそのまま流れるに任せる。
愛してるのに、大切なのに、いつもこの想いはキミをすり抜ける。
甘やかしたい、守りたい。その為になら何だってしたいのに。
カレンを起こさない様に、耳元でそっと囁く。
「……ずっと、一緒に、いるからね」
少し冷静になった頭で色々考えていたら、ふと、黄緑頭が脳裏をよぎる。
あの時も、近衛の屑と僕らの間に遮る様に立った彼。
学園を卒業したばかりのカレンから、信頼を勝ち取ったあの男。
シュレインと、もっと話をしてみよう。
僕がカレンから、信頼を勝ち取る為に。




