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急にガシリとリュート様に両肩を掴まれる。
驚いてそちらを見ると……泣きそうな瞳と、目が合った。
どうしてだろう、ちゃんと言う事を聞いたのに。どうしてそんな悲しそうな顔をなさるんだろう?
やっぱり、お着換えの手伝いとお茶すらも駄目だったのだろうか。
そのまま言葉を探すように視線をさまよわせ、口を閉じたり開いたりしているリュート様を待っていたら、そっと抱きしめられた。
「……大丈夫だよ、カレン。大丈夫だから……」
「リュート様?」
何が大丈夫なんだろう?どうされたんだろう?と戸惑っていたら、少し体を離して顔を覗き込まれる。
「……教えてもらっていい?どうして、仕事をしたいと思ったの?」
思わずきょとんとしてしまう。駄目って仰ったのに……?
それでも、リュート様からのお言葉に答えないなどという選択肢は私には無い。
どうやって伝えようか考え、口を開いた。
「えぇと。今日はほとんど業務に入れていないことと、私のせいでリュート様まで近衛対応などお時間を割く事態になってしまいましたので……この後、リュート様が業務に戻られるのであれば、少しでも業務量の軽減に携わりたいと思いました」
「…………そっか」
リュート様はじっと目を閉じたかと思うと、ゆっくり息を吐く。
前髪を流した今のお姿だと、睫毛が長いことまでよく分かるなと思っていたら、ゆっくりと切れ長の目が開き赤茶色の瞳が私を捉えた。
「今日は僕も、もう休む。一緒に寝よう」
「……宜しいんですか?」
お話を聞く限りだと、夕方からまともに業務ができていないはず。
リュート様は夜まで業務をした後、深夜帯にご自身の研究を進める方だ。今日の分は勿論できていないだろうし、やりたい事も沢山あるだろうに……。
――私が、仕事したいとか言ったせい?気を遣わせた?
血の気が引く。どうして、どうして。
お役に立ちたいだけなのに、どうしていつもリュート様にご迷惑をおかけしちゃうんだろう。
「カレン?」
「あ、あの、すみませんリュート様、あの、私……ひ、一人で休みますから、リュート様は、したいこと、なさってください……!」
貴方の邪魔になりたくない、貴方の迷惑になりたくないのに……正解が、わからない。
リュート様は、私に向かって優しく微笑んでくださる。
優しくて優しくて、少し遠い笑み。
「……僕も、色々あって疲れたから。今日は早く寝て、明日しっかりやるよ。だから、一緒に寝てくれる?」
◇
湯浴みして、夜着に着替えて、ベッドに入る。
元々社交のある日は仮眠室に泊まる約束で、今日もそのつもりで荷物を置いておいて良かったなと思う。
寝る前に、リュート様が薬草茶を淹れようとされていたので手伝う。私の分も用意してくださったので一緒に飲む。
お茶の熱がお腹にしみる。そういえば、朝食を食べたきり何も食べていなかった。
リュート様と一緒に寝台に入る。
時計をチラリと見ると、日付が変わるかどうかくらいだった。
いいのかなぁ、こんな早い時間に寝てしまって。
リュート様も、普段なら絶対に寝ないような時間。
ごめんなさいリュート様、うまく立ち回れなくて、迷惑をおかけして、ごめんなさい。
そう思っていたのに、抱きしめられるとやっぱり温かくて、安心してしまって……気が付けば、ぐっすり眠ってしまった。




