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42-1

リュート様たちが隣室に入られたので副長様とシュウさんとお話をして待っていたら、副長様がにっこりと微笑む。

「ストックリー夫人、ご協力ありがとうございました。聴取はこれで終了です」

「……えっ!?」


思わず面食らう。

世間話をしていただけのつもりだったが、もう終了らしい。

今回の件について話したことといえば、馬車の中でベスさんから簡単な状況説明を受けたことと、安全が確保されるまで馬車の中で待機していたことをお話ししただけだ。


「お前、護衛対象者の聴取見たことなかったもんな」

シュウさんが笑って説明してくれる。


「俺ら護衛官の聴取はガチガチに絞られるけど、護衛対象者は逆なの。護衛が適切な指示を飛ばしてたか、お前がそれに従ってたか確認するだけ」

「そうなんですね。私、馬車の中に居ただけで、説明できることほとんどないのにどうしようって思ってました」

「あはは、それでいいんだよ。俺らがキッチリ仕事したっていう何よりの証明だ」


シュウさんはそう言うと、立ち上がって伸びをした。

副長様がそれを複雑そうな顔で見る。


「お前がそれだけの傷負うって……本当に手練れだったんだな。近衛として、貴族夫人を守り通してくれたことに感謝するよ」

「はいはいどーも。俺としては、元相棒のお守りをしてるだけなんだけどね」


ヒラヒラと手を振って応えたシュウさんは、隣の――リュート様たちがお話しされている部屋の方を向く。

「顧問さんたちに、こっち終わったって声かけてきていい?そろそろ男爵夫人を休ませたいんだけど」

「ああ、今日はこれで大丈夫のはずだ。向こうには切り上げてもらおう」


リュート様達のお話を中断させてしまっていいのだろうか?

不安になってしまい、思わずシュウさんに声をかける。

「あの、お邪魔でしょうし、声だけかけて私達だけ先に帰るっていうのは……」


言った瞬間、シュウさんが額を押さえて沈痛な面持ちになった。

どうやらシュウさんが一緒でも、先に帰っては駄目だったらしい。余計な発言をしてしまったと少し落ち込む。

「絶っっ対ぇ駄目」

「うう、すみません……」


そんな話をしていたら、コンコンとドアがノックされ、セリナさんが入室してきた。

「カレンちゃん!!」

「セリナさんっ」

私を見るなり、泣きながらぎゅうっと抱きついて来てくださった。安心して頂きたくて、にっこりと微笑む。

「うわぁーん、よかったぁ〜〜〜!!急に技術部棟戻ってこいって言われて、戻ったらカレンちゃんが危ないって言われて〜〜!」

「ご心配おかけしました……!皆さんが守ってくださったので、私は傷ひとつないですよ」


しばらく抱き合ってセリナさんを宥めていたら、落ち着いたらしいセリナさんが私に手提げ袋を手渡してくる。中に入っていたのは、軍の内勤用の制服だった。

「ごめんね、カレンちゃんの着替えの場所分かんなくて、とりあえず庶務にある制服借りて来ちゃった……。サイズ合ってる?」

「わぁ、ありがとうございます!助かりますっ」


正直な話、血と土がついたこのドレスのまま技術部棟に戻りたくなかったので、とても助かった。

副長様とシュウさんに許可を頂いて、別室でセリナさんに手伝ってもらい身支度をする。顔を洗い、軍服に着替えて髪もひとつに結い直せば、いつもの私の完成だ。


もとの会議室に戻ったら、リュート様やゼフト部長達がお話を終え、私を待っていらした。

平謝りした後、近衛の皆さんにご挨拶して技術部棟に戻る。部長とブノワさんはこのまま近衛に同行して、少し王宮でお話があるらしい。


顧問室に汚れたドレスを持っていくのは憚られたので困っていたら、セリナさんがドレスを預かってくださった。

お礼を伝えてリュート様と顧問室へ戻る。


午前中は眠ってしまったし、午後は刺繍会。そのまま襲撃を受けてしまったので全く業務が進んでいない。

少しでも業務を進めてから休もうと思ったのだが……。


「カレン?なにしてるの?」

自机に座った途端、リュート様が不自然なくらいニコニコとした笑顔で聞いてくる。

「えぇと、今日、何もしてないので……」

「今日のキミは、もう休むのが仕事だけど??」


……どうしよう。

本当は仕事がしたかったが、リュート様を怒らせる方が嫌だ。おずおずと立ち上がる。

「…………あ」

「今度はどうしたの?」

「お食事!どうしましょう、今すぐ食堂の厨房を借りてきます!」


血の気が引く。

リュート様は、私かウェンさんの作った食事しか食べることができない。なので普段は私が作らせて頂いているのだが、もうこんな時間だ。

どうしようと慌てていたら、リュート様に腕を掴まれる。

「落ち着いて。丸薬もあるし今夜はいいよ。ねぇ、本当にどうしたの?カレンはゆっくり休んでいいんだよ?」

「……え?」


リュート様の仰る意味が分からず、きょとんとしてしまう。

だって、本当に何もしてない。仕事もしてなければ、お食事も……リュート様のお役に立つことを、今日は何もしていない。

でも……。

――この愚図が!勝手なことをして、お前はいつも邪魔しか出来ないのか!!――

――……っぷ――


自分の意思を伝えようとした瞬間、お祖父様の声と同級生の嘲笑が蘇る。

……弁えて、慎んで、勝手なことをしてはいけない。感情に任せた振る舞いをしてはならない。


「……承知しました、リュート様。お心遣いありがとうございます、本日は休ませていただきます」

にっこりと、リュート様に向かって微笑む。

何故かリュート様が驚いたように私を見ているが、どうしても気がかりだったことだけお許しが欲しくて言葉を重ねる。


「ただ……リュート様は、このまま業務に戻られますよね?お着換えのお手伝いと、お茶だけは淹れさせていただけませんか?」

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