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(一人称視点に戻ります)
シュウさんに笑い飛ばされ、ベスさんに頭を撫でられているうちに技術部棟に着いたらしい。
ようやく馬車の外を見ることが出来た。
夕方に馬車に乗ったはずなのに、気が付けばすっかり夜だ。
「ストックリー、近衛が来てる。部長さんとお前の旦那が対応してるってよ。先に顔出してくっから、悪いが医務室で診察受けたら講堂に来てくれ」
技術部棟の馬車寄せに着いた途端、カイル班長がそう言ってそのまま講堂に向かっていく。
リュート様が講堂に……?
近衛が関わるとこんなにあっさり許可が出るのかと一瞬呆けてしまったが、リュート様のことを待たせるわけにはいかない。
まずは医務室だと慌ててベスさんを抱えようとしたら、呆れ顔のシュウさんに制された。
「お前、ベスさんと大して背変わんないんだから抱えようとすんなよ……俺が運ぶ」
シュウさんだって大怪我をしているのにと思ったが、既に軽く治癒したからか軽々とベスさんを抱え、しっかりとした足取りで技術部棟内を進んでいく。
慌ててついて行き、医務室でベスさんとシュウさんと、ついでに私も簡易診察を受けた。
要安静のベスさんを医務室に預け、シュウさんと一緒に近衛の待つ講堂に向かう。
一人で行けると言ったが、さっきまで拉致襲撃を受けていた人間が敷地内とはいえ一人で行動するなとシュウさんに叱られた。
「来てんの近衛だよな?よーし、俺このままでいいや」
「え!?だ、大丈夫ですか?着替えないと気持ち悪くないですか?」
シュウさん本人の怪我は馬車の中で治癒させてもらったが、服はそうはいかない。
袈裟懸けに斬られた制服は切り口が分かるくらいはっきりと傷んでいるし、返り血とシュウさんの血が染み込んだまま乾いたせいでバリバリと音がするし、何より戦闘後なのでかなり汚れている。
着心地は最悪だろう。
それなのにシュウさんはカラカラと笑う。
「いいんだよ、この方が襲撃がヤバかったって、説明だけより伝わるだろ?」
「もう……」
「あ、むしろお前はこれ着とけ」
そういうと、黒い外套が肩に掛けられる。
「これ……?」
「ベスさんの。一緒に行けない代わりにだって。色々隠せるし丁度いいだろ」
その言葉にぐったりと横たわっていたベスさんの姿を思い出し、目頭が熱くなるがぐっと堪える。
私自身もシュウさんの怪我を治したり色々したせいで、ドレスが血や土でかなり汚れていたので、外套で隠せるのは有り難かった。
近衛騎士団は儀礼を重んじる方々と聞いている。
この格好で行くのは正直憚られるが、今は待たせる方が問題だろう。それに何より……早く、リュート様の顔が見たい。
外部棟との境目を抜け講堂に辿り着くと、背の高い人影が見えた。
「カレンさん!」
「ウェンさん!」
つい駆け寄ると、ウェンさんは私の姿を見て、力が抜けたように膝に手をつき大きく息を吐いた。
「よかった、本当によかった……!」
「ご心配おかけしました、大丈夫です!」
ウェンさんの姿を見て、ようやく無事に帰ってこられたと実感した。つい安心して泣き笑いのような表情になってしまう。
ウェンさんは、部長とリュート様がこちらに来たので通常業務対応のために一度技術部棟に戻るところだったらしい。
そのまま講堂の前で分かれて、会議室へ向かう。
廊下で待機していた護衛官と、近衛だろう紺色の隊服を纏った方がすぐに私達に気付く。
護衛官が中に声をかけようとした瞬間、内側から勢いよく扉が開いた。
人影が飛び出してくる。
いつもと違い身だしなみを整えているが、その程度のことで誰か分からなくなるはずはない。
赤茶色の、優しい瞳が私を捉える。
「――カレン!!」
気がついたら、リュート様の腕の中だった。
馬車の中であれだけ泣いたのに、涙が止まらない。
「おかえりカレン。よく頑張ったね」
「た、ただいまっ、戻りましたっ……!」
本当なら、廊下でこんな事をしている場合ではない。
涙ぐんだままの私を支えるように、リュート様が一緒に歩いてくださる。
状況が状況だったので、大目に見てくださっていたのだろう。カイル班長が苦笑いしながら扉を開けて待ってくれていた。
恥ずかしくてそそくさと会議室の扉をくぐった時、声が聞こえた。
「……っぷ」
反射的にそちらを見ると……学園時代の同級生達が、近衛の制服を着てニヤニヤと笑っていた。




