40-2(三人称)
技術開発部がある第一研究所には、外部棟と総称される建物がいくつかある。
研究資材や器具の洗浄など雑務系を担当する実験補助棟、申請があれば外部者も図書館として使用できる資料棟、外部向けの講義や会議を行うための講堂などだ。
ブノワとウェンが講堂内の会議室へ、濃紺に金糸の詰襟を着た十数名の集団を誘導する。
彼等が背負う短めの外套には、王家の紋章が刺繍されていた。
小隊を率いる小隊長は、会議室の中で待っていた男……護衛官に声をかける。
「ああ、君か。カイルはどうした?」
「班長はこちらに向かっている最中です。情報処理長が現場の方を担当していますので、それまで俺がお相手しますよ」
近衛騎士団と護衛官は、所属団体も命令系統も異なるが、こうやって現場を共にすることもある。
小隊長はカイル班と顔見知りだった。
一般騎士が壁際に控え、小隊長と副長が部屋の中ほどで護衛官と軽く話をしているところに、ウェンが近寄り声をかけた。
ウェンは上背があるので技術部員相手だと見下ろしがちになるのだが、小隊長や護衛官と並ぶとあまり視線が変わらない。
「部長と顧問も只今用意しておりますので、恐れ入りますが、しばらくお待ちいただけますか」
「承知した。ストックリー男爵夫人はお戻りだろうか?お戻りになり次第、お話を伺いたいのだが……」
小隊長が「男爵夫人」と言った瞬間、フッと呼気が聞こえる。副長が素早くそちらを見ると、壁際の若手三名が咳払いしたり視線を揺らしていた。
いずれも20歳前後の、訓練期間が終了したばかりの若者であった。
副長が青筋を立てて彼等に詰め寄ろうとするが、小隊長が手で制して代わりに若手の方を向く。
彼も副長同様、怒りの表情を浮かべていた。
「近衛の品位を下げるな。ストックリー卿は陛下直々に叙爵された方だ。その奥方への礼を欠くことも、騎士道として拉致未遂に遭われたご婦人への配慮を怠ることも許されない」
注意を受けた三人は頷きはするものの、やや腹落ちしていないようだった。
もう少し『指導』するべきかと小隊長と副長が思案していると、会議室の扉が開き、二人の男が入室してくる。
入室してきたうちの一人、ゼフトが軽く一礼して口を開く。
「失礼。顧問……男爵の外出許可に時間をいただきまして」
「……『外出許可』?」
副長が、思わずポツリと溢してしまう。
確かにここは外部者の受け入れを行う棟だが、それでも第一研究所敷地内だ。それなのに……外出許可?
ゼフトは言われ慣れているのだろう。ニコリと微笑み言葉を返す。
「はい、外出許可です。彼は国立軍内部規則に則り、普段は内部棟敷地内しか行動を許可されておりませんので」
ゼフトに促され、一緒に入ってきた赤茶髪の男が軽く一礼する。
普段の目元を隠す前髪は軽く後ろに流され、服も整った物を着ている。眼鏡だけはいつも通りだが、それでも傍目から見て分かるくらい、美しい顔立ち。
「リュート・ストックリーです、よろしく」
壁際に立っている隊員達が、若手も含めて全員息を呑む。
一代とはいえ、男爵を叙爵されるに至るだけの功績を持つ男の、若さと美貌が信じられなかった。
ゼフトはその様子を見て、どうにか普段の前髪と麻のシャツ一枚の適当な姿を晒さずに済んだと内心嘆息する。
研究員として過ごす分には問題ないが、流石に近衛の前に男爵として立つには許されないだろうと、ゼフトが外出許可を取っている間にセリナが整えてくれたのだ。
小隊長と副長が自己紹介を済ませ、護衛官とゼフトからの状況説明が始まった。




