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40-1(三人称)

少し時刻を遡り、馬車が郊外に誘導され戦闘が始まった頃――


技術部棟顧問室は、あり得ないほどの魔力圧に包まれていた。

あのままリュートと部長室でやり合うわけにもいかず、ゼフトとリュートは顧問室に移動したのだ。

何か緊急事態があった時、ウェンがすぐ教えに来てくれることになっている。


目を閉じてじっと状況説明を受けていたリュートは、ゆっくりと目を開く。

瞳は相変わらず柘榴色に輝いている。


「……へぇ、それで?何ですぐ僕に教えなかった?」

怒り心頭のリュートに対し、ゼフトは冷静に返す。

「状況が固まる前に、お前に言って何になる?」

「……あぁ?」


相変わらずこの弟分は、普段はウェン譲りで穏やかに話すくせに、本気で怒ると口調が一気に荒く……というか、怒っている時のゼフトとそっくりになる。

悪いところばっかり俺に似たな、とゼフトは内心苦笑しながら口を開く。


「ストックリーを拉致しようとしてる連中の最終的な狙いは……リュート、お前だ。仮にお前が飛び出して、護衛官に余計な手間かけたら何が起こる?」

「…………」

「いま動いてる連中の動きを妨げるな。揺れるな。お前が本気を出せば確かにこの瞬間のストックリーはすぐに助けられるだろうな。それで、その後はどうするつもりだ?本気で暴れて人里離れたところに逃げるか?それは本当にあの子にとって幸せな人生か?」


「…………」

リュートは答えない。

部屋の魔力圧は上がり続けるが、反論は出てこない。

ゼフトは正直その魔力圧に息苦しさを感じ始めていたが、表情を崩さずに話をする。


「……お前に『技術顧問』として話がある」

「何だよ」

「護衛官からの報告によると、ストックリー拉致後、輸送用の別働隊がいる可能性が高いらしい。……さっき治安院長から直接俺に連絡があった。いま戦闘中の郊外地点を中心に走査して、その輸送部隊がどこに潜伏してるか見つけてくれってよ」


沈黙が顧問室を支配し、時計の針の音だけが響く。

リュートはゆっくりと、長く長く息を吐いた。


「……地図どこ」

その言葉に合わせ、顧問室の魔力圧はいつも通りになり、リュートの瞳も温かみのある赤茶色に戻っていた。



「……あ」

潜伏している集団らしき相手の座標を治安院長に伝えた数分後、念のため周囲の走査を続けているリュートから声が上がる。


「どうした?」

「……多分、カイルさんが着いた。強い魔力の人が一人、凄まじい速さで近づいてきて……そのまま二人殺したから」

どうやら、シュレインと交戦している戦闘部隊の様子も見ていたらしい。その一言に大きく息を吐く。

カイルが着いたなら、もう問題ないだろう。


「そうか、良かった」

「うん。膠着状態だったみたいで、さっきからずっと人数変わらなかったから……」


走査の片手間なのか、走査が片手間なのかは知らないが、ずっと戦況も見ていたらしい。

ゼフトは苦笑いしながらも真剣な話をする。

「カイルが現着したなら、輸送部隊は速やかに離脱する可能性が高い。……捕えられるかはお前の走査次第だ」

「分かった。移動したら教え……あ、もう動き始めた」

「逃げる方向が分かったら教えてくれ」


肩の力を抜いてそう言うゼフトを、リュートがそっと見る。

何とも複雑そうな顔で自分を見てくる弟分に、気付いたゼフトが声をかけた。

「どうした?」

「……さっきはごめん。頭に血が昇った」


――こういう所が可愛げあるんだよな。

ゼフトは思わず笑う。

「はは、気にすんな。あとで落ち着いて迎えてやれ。とりあえず走査に集中しろ」

「うん」


そんな話を二人でしていたら、顧問室の扉がノックされる。

「ゼフト、私です」

「ウェン?どうした」


カイル現着の連絡にしては速すぎる。

何の用かとゼフトが扉を開くと、困り果てた様子のウェンが立っていた。

「あの……カレンさんの件で、近衛騎士団から聴取に来たいと連絡が……」

「は?近衛?なんでストックリーの拉致未遂が近衛に漏れてる?」


情報の出所が分からず思わず眉を寄せたゼフトに、ウェンは眉尻を下げて答える。些か顔色も悪いようだった。

「王都内複数箇所で、護衛官の進行妨害や警邏撹乱のための工作もされていたそうで……まぁ、あの、流石に漏れたというかバレたというか」

「連中、そこまでやってたのかよ」

「何でも火事に見せかける為に、大量の煙が出る薬品が食堂のかまどに放り込まれていたらしくて……国勢院の消火係から、近衛と治安院に工作疑いの通報があったそうです」


話を聞いてゼフトは思わず頭を抱えてしゃがみ込みたくなった。というか、これが職場ではなく家でウェン一人にしか見られていない状況だったなら、迷わずしゃがみ込んでいただろう。

「もうそれ拉致未遂っていうか準軍事行動じゃねぇか。そりゃ近衛出てくるわ」

「はい……カレンさんの安否もまだ連絡がないのに」


ウェンが心配そうに表情を歪ませる。

本当ならばカレンの無事……というよりカイルの現着を教えてやりたいゼフトだったが、リュートによる走査については極秘だ。

例え己の右腕であっても教えるわけにはいかない。


ウェンの肩に手を置き、ゼフトが安心させるように口を開く。

「近衛の件は了解した、カイルと連絡が取れるまでは外部向けの棟に一旦通す。ブノワと連携してくれ。……俺とリュートは治安院長から直接連絡があった件で、まだ顧問室から出られない。悪いが、もう少し任せた」

「……分かりました。」


返事をすると、ウェンはすぐに部長室にとって返す。

きっとウェンが部長室に戻る頃には、カイル現着の知らせが彼の耳にも入るだろう。

そんなウェンの背中を見送ると、ゼフトも顧問室の中に戻った。

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