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39-2(三人称)

(しばらく三人称が続きます)


情報処理担当やシュレインと通信を繋いだ後、ベスは漸く護衛対象者に状況説明ができるようになった。


《……というわけなの、カレンちゃん。良い子にしててね》

《あ、あの、私に出来ることはっ……》


元部下の元後輩は、自分が何も出来ない立場であることが歯痒くて仕方ないらしい。震える声で指示を仰いでくる。

彼女らしいなとベスは微笑む。


《これからはシュレインと繋ぎっぱなしになるから、カレンちゃんとの通信は安全確保が完了するまで出来ないと思う。外の様子が分からないのは嫌だと思うけど……私達を信じて、馬車で籠城しててくれる?》

《……っ》

カレンが息を呑んでいるのが、通信越しでも分かった。


《ベスさんとシュウさんの事は、いつだって信じてます。……すみません、何も出来なくて》

《とんでもない。カレンちゃんが私達を信じてくれるだけで、とっても嬉しいわ。じゃあね》


ベスはそう言ってカレンとの通信術式を終え、シュレインと繋ぎ直す。


《シュレイン。カレンちゃんね、私達のこと信じてるって》

《そりゃどーも》

シュレインの口調は相変わらずいつも通りだったが、御者席に座るベスでも分かるくらい、後方のランブルシートからピリピリとした威圧感を感じる。


馬車と並走する馬はとうとう5頭にまで増え、前後左右を固められ進路を完全に誘導されていた。

石畳を走る車輪と蹄の音が街中に響く。


馬に乗っている男達は、小綺麗な揃いの格好をしている。傍目から見れば厳重に警護された馬車が走っているようにしか見えないため、気にする通行人もいない。

最初は振り切ろうとしたベスだったが、馬車が横転する可能性が高すぎたため、しばらく誘導に乗ることにした。


身なりといい動きといい、今までの様子見の連中とは全く違う、明らかに訓練された立ち回りだ。

それでも誰も仕掛けてこないのは、誘導中ということもあるが……それ以上にシュレインの功績だろう。


実際のところ、馬車と並走している男達は、機会があれば誘導完了前に攻撃を開始する段取りであった。

しかし、ランブルシートに立つ護衛官――シュレインの存在が、視線が、一挙手一投足がそれを許さない。


静かに立っているだけのはずなのに、少しでも馬車に近づくと静かに視線を動かす。外套のせいで軍刀が見えず、どう対処してくるかも分からない。


動けば必ず殺される――不思議とその確信だけが募っていく。

好戦的な性格と聞いていたのに静かに佇み、まるでこちらを観察してくるような黄緑頭の護衛官に、彼等は内心恐怖を覚えていた。



空が茜色から夕闇色に変わる頃、郊外に至る道へ誘導される。

《……誘いに乗るしかない。応援要請はしてるけど、いつ来るかわからない。シュレイン、いける?》

《勿論。殺傷許可も取れたし問題なしー。ベスさんはカレンと籠城してて》


そんな通信をしながら馬車を走らされていると、街道沿いに武装した集団がいた。恐らく20人は居るだろう。

その人数に、ベスは内心舌打ちする。


5人程度ならシュレインの敵ではないだろうが、20人は多すぎる。

しかも先程から、最後方の馬に乗っている男が魔術師らしく防護術式の解析と中和を試みられている気配がした。

シュレインに、交戦が始まったらなるべく最優先で殺してほしいと伝えているが、上手くいくだろうか……。


――今日は長丁場になるわね。

そう思いながら、ベスは耳飾り型の魔導具に触れる。

最後の最後に使うと決めている、正規の相棒であり班長のカイルと直通で繋ぐための魔導具を起動した。



同時刻、技術部棟。

部長室の応接スペースで、ゼフトは残った護衛官から報告を受けていた。

「――以上が、現在の状況です」

「ストックリーの持つ追跡魔導具があっても、馬車の所在は特定できないのか」

「瞬間瞬間の位置はわかりますが、馬車の速度に間に合うよう先回りする必要があります。しかしかなり不規則な道を走らされているため、予測困難な状――」

「失礼します」


説明中、別の護衛官が入室してくる。

普段はウェンの護衛を担当している男だ。

「班長宛の直通アリ、最終誘導地点特定済。班長はそのまま向かってます」

「追加人員は」

「班長が『セリナ女史が帰棟し次第、館内巡回と交代要員以外こっちに回せ』と」


護衛官二人のやり取りを聞きながら、ゼフトは眉間を指で押さえ、溜息を吐きながら背もたれに身を預けた。

不味い、非常に不味い。

ベスから馬車への並走連絡があってから、もうすぐ一時間。カレンの帰棟予定時刻など優に超えている。


ゼフトの不安を受け取るように、ウェンが恐る恐る口を開く。

「……ゼフト。流石にこれ以上リュートに隠すのは逆効果です」

「分かってる」


リュートがゼフトとウェンの言う事を何故聞くかといえば、古い友人であり絶対的な信頼関係があるからに他ならない。

そんなリュートに対して妻の危機を伝えないという、不誠実な行為は彼等の信頼関係に少なからず影響を与えるだろう。


――あの愛妻家を通り越して嫁馬鹿に進化した弟分に、なんて説明するか……。

ゼフトは胃が絞られるような気分になったが、なんとか口を開く。


「あー、俺が説明してくる。悪いが少しリュートのところに――」

「僕が、なに?」

ゼフトの言葉に食い気味に被さった声。

それが聞こえた瞬間、その場にいる全員が動きを止めた。

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