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36-2

「先ほどはありがとうございました。ルキウス様」


ウェンさんの事件の後、久々の夜会。


定刻通りに到着したにも関わらず、いつまで待っても案内係に対応してもらえなかった。

社交で致命的ともいえる、遅刻者の烙印を押されそうになり焦っていたところ、ルキウス様が案内係の「勘違い」を正してくださったのだ。


ルキウス様は金色の瞳を細め、ゆったりと杯を傾ける。

「いいえ。案内係がリストを読み飛ばすなど、主催者の名誉にかかわる事。僭越ながらお手伝いしたまでですよ」


確かにルキウス様の言う通りだ。

招待しておいて適切な対応をしなかった、という事実は『会を主催する能力がない』と露呈してしまうに等しく、非常に不名誉なことだ。

事実、あとから事情を聴いた主催の方には「手違いがあった」と内々に謝罪されたし、気が付いたら読み上げ係は交代させられていた。


……読み上げ係のそばに学園時代の同窓生がいた、おそらく彼女がリストに細工をしたのだろう。

鉄屑が社交に出てきて面白くないのかもしれないが、主催の方に迷惑をかけるのはいただけない、と微かに息を吐く。


「おや、その耳飾り。今まで拝見してきたものとは少し色調が異なりますね……夫殿は赤みのある髪色をお持ちで?」

ルキウス様が赤瑪瑙のイヤリングに気付いたらしい。

愉快そうに微笑まれ、頬が熱くなる。

「はい、夫から贈られました。宝物ですの」


恥ずかしいが、にっこりと笑ってはっきりと口にする。

社交はイメージの勝負だ。

以前の一件を受けてきちんと「愛されている妻」として振舞うよう、リュート様と話し合ったし、なによりルキウス様とお話して頬を赤らめていたなんて噂されたら、もはやそれは醜聞だ。

話の内容を誤解されないためにも、きちんと言うべきところでは言わなければならない。


「ああ、美しいですね。夫殿は夫人の魅力を正しく理解されているらしい」

ルキウス様は、そう言って満足そうに笑った。


夜会が終わり帰る時、ルキウス様から再度声をかけられた。

「夫人、護衛官の皆様はご存じかもしれませんが……最近、王都に傭兵団が滞在し始めたようです。私のような一介の商人には、嵐が無事過ぎ去るよう祈ることしかできませんが……」



「カレンさん、進捗計画の見直し分と各案件の情報共有、お願いしていい?」

「承知しました!」

会議のあと、そのまま3班長に声をかけられ、リュート様と三人で打ち合わせをする。


緊急の外出自粛などがあったため、しばらくはどことなく落ち着きがなかった技術部。

最近ようやくいつも通りになってきた。


私自身も、最近は調子がいい。

週に一度程度は社交――リュート様のところに泊まる約束があるおかげで、週に一度は術式無しで眠れている。その影響なのか、だんだん昏睡まで使わずとも睡眠導入で眠れる日が増えているからだと思う。


打ち合わせを終えて顧問室に戻るため廊下を進みながら、リュート様をチラリと見る。

凄いなぁ。リュート様と一緒にいると、良いことばかりだ。

優しくて、思いやりがあって、一緒にいるとすごく安心できて……本当に素敵な方。


そんな事を考えていたら、中庭から声が聞こえた。

見ると組み手をしている二人に、シュウさんが助言をしていた。リュート様もそれを見て呟くように話す。

「シュレイン、昨日キミの護衛もやってたのによくやるね。疲れてないのかな」

「シュウさんは……」


――多分、時間の許す限り後輩を育てようと思っているのだろう。


そっと首を振って、笑顔を浮かべる。

「シュウさん、体力凄いんですよ。私が護衛官になりたての頃なんか、よく背負って帰ってくださって」

「は、おんぶ?なんで??」

「私、最初のうちはどうしても体力不足で……。帰還時に気が抜けて馬車とかで寝落ちてしまうことがあって」

「ふーん……」


相槌を打つリュート様は、面白くなさそうに唇を尖らせる。

「カレンにおんぶ、僕やったことない」

「えっ、す、する必要もないのでは……!?」

「今度やっていい?」

「え、えっ?!」


リュート様と過ごす時間が、最近本当に幸せだ。

妬いたり、プレゼントを贈ってくださったり、分かりやすく熱を向けてくださったり。

そんな事を考えていたら、後ろから駆け寄る音がするので振り返る。


「レーン!お昼行こっ。リュート様、レン借りていいですか?」

リーリだった。最近バタバタしていてあんまり落ち着いて話せていなかったので、誘ってもらえて嬉しい。


「ふふ、リュート様。行ってきてよろしいですか?」

「仕方ないね。ローゼスに貸してあげるよ」

「やったー!」

リーリと二人で顔見合わせ、笑い合う。


――ああ、私。やっぱりここが好きだ。

笑い合いながらそんな事を、ふと思った。

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