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33-3

医務官が調書用の検分に慣れていないということで、私とベスさんの二人でウェンさんの傷を検めることになった。


「はい、ウェンさん包帯外しますね。痛みが強くなったらすぐに教えてくださいねー」

声をかけながら包帯を取り、ガーゼを外す。

……痛ましい、今すぐ治してしまいたい。


そんな衝動と戦いながら、傷をじっと見て観察する。

「──挫創痕あり。擦過痕も周辺に残ってます。

斜め下から殴打されてますね。ウェンさんは背が高いですから。傷の形状から武器というより自然物の可能性が高いと判断します」


その後も一通り傷口を検める。

私の話す内容を記録していたベスさんが、頷きながら口を開いた。

「はい、診療所での初期診察および私の見立てとも一致します。調書用記録ヨシ。準医師権限で回復可能範囲です。治癒開始」

「はい。ウェンさん治しますよー。傷口が残らないように少し急いで処置しますので、回復痛が出るかもしれません。痛かったら教えてくださいねー」


護衛官時代に準医師免許まで取っておいて本当に良かった。

そう思いながらウェンさんの頭部に手をかざし、傷を癒していく。


ウェンさんは微笑みで応えてくださる。

「ふふ、流石ですね」

「恐れ入ります。出血もしてますし、頭部は後から影響が出ることもあります。今日はこのまま安静に――」


そう話していたら、医務室の扉が勢いよく開いた。


「……ゼフト」

ウェンさんが目を見張り、ポツリと呟く。


治療をしているので横目でしか見れていないが、ゼフト部長のようだった。

馬車寄せから急いで来たのだろう、軽く息が切れている。


「…………っ……」

部長は言葉を発することなく立ち尽くしている。

痛いくらいの沈黙が、治療室を支配した。


「ゼフト。現状の報告、今と後どっちがいい?」

リュート様が、いつも通りの口調で沈黙を破る。

部長は弾かれたように、リュート様の方を向いた。


部長はリュート様を見つめ、再び止まってしまったらしい。なんの返事も聞こえない。

しばらくして、深呼吸する音が聞こえた。


「…………ストックリー、治療はあとどのくらいかかる?」

「頭部ですので少し丁寧にさせていただきたいです。一時間後には確実に終わっています」

「……終わった頃にまた来る。リュート、それまで引き継ぎくれ」

「わかった。カレン、僕らは部長室にいるから終わったら教えて」

「承知しました」



ゼフトと二人で部長室に入る。

ここまで無言のゼフトを見るのは久々だった。


「……大丈夫?」

聞き方が悪い、単刀直入すぎたと思ったけど遅かった。


ゼフトの執務机の天板から凄まじい音がする。

まさに怒りに任せて殴った、というに相応しかった。

拳に力が入りすぎて、手が真っ白になっている。


「は、大丈夫?…………んな訳ねぇだろ。クソが」

ゼフトの肩が上下に揺れ、声が震える。呼吸も乱れているようだった。

無理もないな、と落ち着くのを待つ。


何処の誰だか知らないけど……ウェンだけは狙っちゃいけなかった。

――ゼフトは、ウェンに関してだけは絶対に譲らない。


そのまま執務机の椅子にどっかりと座ったゼフトが、大きく息を吐く。

「…………はぁ…………悪かった。取り乱した」

「別にいいよ。お茶淹れてくるから少し待ってて」


正直な話、ゼフトはよく耐えている方だと思う。

もしカレンがあんな目に遭わされたら……無理だ、絶対に、あんなにすぐに立て直せないと思う。

ウェンのことだって、カレンが腕の中に居たから何とか我を失わずに済んだっていう有様なのに。


お茶を淹れたついでに、ゼフトのカップの隣にウェンの追跡魔導具を置く。

「…………追跡魔導具?なんでお前が持ってる?」

「護衛官に指示して持って来させた。ねぇゼフト、これに耐衝機能が起動したら、その瞬間の周囲の人間の魔力紋を自動記録する機能、つけたの覚えてる?」


ゼフトがゆっくりと目を見開く。


魔力紋とは、一人ひとりが持つ異なる魔力波長の事だ。

一人として同じ人間は存在せず、双子ですら異なる。

個人間の通信魔術はこの魔力紋を魔導具に登録して行われるし、他のありとあらゆる魔術的生体認証にも用いられているものだ。


「ねぇ、ゼフト……王都全体の魔力紋の走査許可って、取れる?」

「……王城敷地以外って条件で、コネ全力で使って根回ししても、許可取りだけで半日以上かかるぞ。何考えてる」

「あは、取れるんだ。流石」


王都は王侯貴族が多いから、魔力紋の範囲走査なんて許可が下りるか心配だったけど、どうやら大丈夫らしい。


「僕が犯人探すよ。ああ、陣の書き出しなんて危ない事しないから安心して。王都くらい僕の魔力量なら問題なく走査出来るし、数万人の魔力紋照合程度、脳内処理でいけるよ」


笑顔で告げると、ゼフトの表情がみるみる強張る。


あれ?僕、変なこと言ったかな?

一人ひとりの全魔力紋を丁寧に読んで照合するわけじゃない。断片情報で一斉照合かけてから、部分的に一致した人から絞り込んで照合するだけの、ちょっとしたパズルなのに。


「リュート…………お前、マジで言ってんのか」

「ふふ。あのね、ゼフト」


顔色悪く厳しい視線を向けてくるゼフトに、ゆったり微笑む。


「僕、今回のこと結構怒ってるんだ」


ゼフトほどじゃないけど……僕だって、ウェンについて譲る気はない。


「だから……許可取り頑張って、ね?」

絶対に、探して、見つけて、捕まえる。

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