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3-4

リュート様が顧問室に居ない。


ここで働き始めてから初めてのことで、今までリュート様達に、どれだけ甘やかされていたのか実感した。


「サンビタリアさん、リュート様は……」

「サンビタリアさん――」

「サンビタリアさん、ちょっと相談させてほしいんだけど……」


一日中、目が回るような忙しさだった。

リュート様のサポートにトベラ様も入ってしまったので、いつも以上に直接声をかけてくる人が多い。


リュート様に裁量を任された案件について何か決めるときは心臓が破裂しそうなくらい緊張したし、裁量外の案件についてのご伝言や相談事は積み上がっていく。

急な資料作成の合間にもたくさん話しかけられて、普段ならすぐ終わるものに、半日もかかってしまった。


「少しだけ、休憩……」

ゼフト部長のところで業務報告と明日以降の相談を済ませ、戻ってきたら疲労感がどっと押し寄せてきた。

ふと窓を見ると、もう外は暗く空の端に茜色がほんの少し残る程度だった。


自机に荷物を置いてから顧問室の端に置かれている小さなカウチソファに移動し、少しの間だけと言い聞かせ体の力を抜く。

ようやく今日の差し込み業務が落ち着いたけれど、これから普段の業務を進めなければならない。



何時に寮に帰れるかな……なんて思いながらぼーっとしていたら、そのままカウチソファで眠ってしまっていたらしい。物音で目が覚める。


「――」

「――――」

会話が聞こえるけれど、寝ぼけた頭ではうまく聞き取れない。思った以上に疲れていたのか、微睡みから抜け出せない。


ふわり、と身体に何かが掛けられて意識が覚醒する。

「おや、かえって起こしてしまいましたか。すみません」

「トベラ様……?」

どうやらトベラ様がブランケットをかけてくださったらしい。丸眼鏡越しに優しく目元が細められる。


「ずっと思ってたんですが、ウェンでいいですよ。敬称も要りません、同僚ですし。……今日は一日、よく頑張りましたね、業務の残りは?」

「リュート様、リュート様は!?どうなったんですかっ?」


慌てて聞いたので、トベラ様――ウェンさんの言葉を無視してしまう形になったが、ウェンさんは気分を害すこともなく可笑しそうに笑う。

「ふふっ……解析は無事完了しました。今は仮眠室で寝てますよ」

ウェンさんの言葉に、胸を撫で下ろす。

「よかったぁ、安心しました」

「ただ……」

「え?」


少しだけ困ったような顔で、ウェンさんが続ける。

「サンビタリアさん、残りの仕事引き継ぐので、リュートの側についててあげてくれますか?」



仕事内容を引き継ぎ、仮眠室にそうっと入る。

「仮眠室」という名前だけれど、ここは事実上のリュート様の私室だ。

ウェンさんに入っていいとは言われたが、部屋の主であるリュート様本人にお許しを頂いたわけではないので少し緊張する。


仮眠室という名の通り元々複数人が寝る部屋の想定だったのだろう、中には壁付きの二段ベッドが二台並んでいた。そのうち一人分の寝床以外は全て書物や資料で埋まっており、まるで本棚の中に人が寝ているようにさえ見えた。

そこで横になっている赤茶髪の男性――リュート様にそっと近づく。


目を閉じて寝ているリュート様は、傍目から見てすぐ分かるくらいグッタリとしていた。ウェンさんによると発熱もしているらしい。解析中ずっと本からの反撃術式が展開され続け、常人なら危険な量の魔力をずっと浴びていたそうだ。

過剰に注がれた魔力を逃すためか、枕元には魔力を溜め込む性質のある石や貯蔵管が大量に置かれており、そのどれもが完全に満たされていた。


魔力過剰状態のため、解熱用などの術式を施すことは全て禁止されている。

枕元に置かれたものを退かしてから、サイドボードに用意された水盆で手拭いを濡らし、リュート様の顔や首元の汗を拭う。


何人もの人を害した術式を受け続けて大丈夫だったのかと心配になったが、今夜一晩の間で容態が急変しなければリュート様の魔力容量なら問題はないらしい。

お姉様以外にもこんなに人並外れた方がいるのだな、と驚いてしまう。


それでも容態急変の可能性があるうちは念のため誰かが傍で見ている必要があるそうで、椅子に座り本を読んで過ごす。

少し眠れた事もあり、夜中起きていること自体は苦ではなかった。


たまにリュート様から息が漏れる。

過剰に注がれた魔力を身体が処理しているのだろう、眉根を寄せて少しだけ苦しそうだった。


そうして何度か汗を拭っていると、瞼が開き赤茶色の瞳が見えた。眼鏡がないせいか、一瞬誰かわからなかったらしい。少しだけ目を細めている。

「……サンビタリア?」

「はい、私です!よかった、目が覚めたんですね……!」


目が覚めたならもう大丈夫なはず。

今度こそ安心して、身体中の力が抜けそうになる。


「いま、何時……?」

「まだ深夜です、お休みいただいて大丈夫ですよ」

「ウェンは?」

「もうご帰宅されました」

「そう」


リュート様はそのままもう一眠りされるのかと思ったら、起きあがろうとする。

「ダメです、まだ寝てないと!」

「汗、きもちわるい」

それを言われると反論できない。

汗を拭うのに使っていた手拭いをリュート様に渡し、水盆を乗せたサイドボードをベッドに寄せた。


「私は部屋から出ておりますね、何かご入用のものはございますか?」

さすがに身体を拭いているところを見るわけにはいかないので、退出ついでに何か欲しい物があるか尋ねたところ、信じられない返答が返ってきた。


「急ぎの内容ってあった?必要ならこれから対応する」


「……はい?」

まさか、このまま仕事する気なんですか……?

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