幕間(31話直後 リュート視点)
……カレンが穏やかな寝息を立て始めたので、そっと目を開く。
安心しきったその顔が、愛しくてたまらない。
身体に溜まった熱を吐き出すように、ゆっくりと息を吐いた。
――可愛いなぁ。
自分の部屋で私服の妻が出迎えてくれることが、あんなに破壊力があるとは思わなかった。カレンが恥ずかしがらなかったら、そのままなし崩しだったなと内心苦笑する。
戸惑う妻の姿を見て、欲に耐えきった自分を誰か褒めて欲しい。
18歳で此処に来て、それ以来ずっと此処で暮らしている。
そんな自分がこんな風に、誰かを愛して共に過ごす日が来るなんて思わなかった。
今でも夢なんじゃないかと思うことがたまにある。
身じろぎ一つせずに熟睡しているカレンの姿を見て幸福感に包まれながらも、シュレインからの伝言を思い出す。
『今日の医務室での診察で、魔力残留値に軽微な異常が出た。自己に施すタイプの術式を乱用してる可能性があるってさ』
『俺から見てもアイツ、なんかおかしい。寝てるのに寝てない、みたいな……』
入眠時に術式を使ったりする素振りは無かったけれど、よほど疲れているのか気を失うように寝たなとは感じた。
「……キミ、今度は何を隠してるの?」
僕の妻は隠し事が好きだ。
無理をしていても声を上げないし、辛いと感じている事ほど隠そうとする。
軽くため息を吐いて、カレンの身体を抱きしめ直した。
カイルさんの話では、シュレイン着任のおかげでしばらく襲撃は大人しくなり……準備が整ったら、今度はシュレインの排除を前提とした規模の襲撃に転向するだろうとのことだった。
「……んぅ……」
抱きしめ直してもカレンは全く起きる気配がない。
温かい。カレン本人は鍛錬で鍛えた身体を気にしているが、僕からしたら、柔らかくてしなやかな肢体。
失う日が来るかもしれない。拐かされる日が来るかもしれない。
そう思うだけで背筋が凍る。
この温もりを、彼女を失うなんて、考えられない。
考えたくもない。
……このまま、ここでずっと一緒にいちゃだめかなぁ。
仕事も社交も何もさせないで、カレンにずっとこの部屋に居てもらいたい。ずっとこの子を愛でていたい。
そんな生まれて初めての衝動に駆られそうになる。
額や頬に唇を落とす。
どうか、どうか僕の前から居なくならないで。




