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30-2

「シュレインです、よろしくお願いしまーす。つっても、俺があいつの護衛やるのは社交とかの外出時くらいなんで。社交無い日は今まで通り館内常駐でその辺ふらふらしてまーす」


飄々とした彼の自己紹介を受けて、班長達の空気が凍る。

それはそうだ。昼前の同僚を血塗れにして怒鳴りつけていた光景は、なかなかに衝撃的だった。

中には少し青ざめている班長もいる。


ゼフトも昼間の騒動を知っているので、班長達の表情の意味が分かるのだろう。

場を取り持つために口を開くが、そんなゼフトですら「マジでこいつなのか」と顔に書いてあるようだった。


「あー、カイル。なんでシュレインなんだ?」

「あ?まあ理由は実力とか色々あるが……今回はストックリーの精神衛生を最優先にした」


カイルさんの言葉に、班長達の空気が更に凍る。

僕自身もなんとも言えない気持ちになった。

確かにカレンは直情型というか、素直に感情を発露する人間の方が相性はいいけれど……。


そう思っていたら、シュレインが不満げに口を開く。

「精神衛生て。俺、またあいつのお守りなの?」

「今までと意味合いは違うけどな」


文句を言われたカイルさんがくっくっと苦笑いしていると、シュレインが僕の方を値踏みするように見る。

「そこの人と結婚したんでしょ、そういうのは旦那に面倒見させろよ」


「…………」

なんだろう、喧嘩を売られている気がする。

これ、買っていいのかな?


そんな本当になんとも言えない空気のなか、ガチャリと部屋の扉が開く。


「すみません、遅くなりました」

軍服に着替えたカレンだ。

襲撃の詳細はまだ聞いてないけれど、本当に特に怪我もなかったらしい。

つい肩の力を抜いて安堵の息を漏らしてしまう。


僕に気付いたカレンが、ふわりと笑って駆け寄ってくる……が、部屋の前方で注目を浴びているシュレインに気付いて立ち止まった。


「あれ?」

「よーっす、おつかれ〜」


声をかけられたカレンは、シュレインと班長達を見比べて少し呆れたような顔をしながら僕の隣に座る。

「……あの、リュート様。あの人何かやらかしましたか?」

「いや、なんもやってねぇから。つーか旦那じゃなくて俺に聞けよ」


ばっちり聞こえてたらしいシュレインが半目でカレンを見る。ただ、そこには怒気は感じられなかった。

班長達の中から「え?」と言う声が漏れ聞こえる。


カレンが更に呆れたように口を尖らせた。

「嘘だぁ。そう言ってシュウさんが悪くなかったことの方が少ないじゃないですか。リュート様、この人何やらかしました?」

当たり前のようにシュレインと会話をするカレンに、驚きを隠せない。


知り合いな事に、じゃない。カレンは元護衛官なんだから、古株そうなシュレインと顔見知りなことは驚かない。

僕が驚いたのは……。


「…………組み手相手血塗れにして、技術部員怖がらせた」

「あっ、顧問さん言うなよ!」


正直に答えたら、カレンが間髪入れずシュレインの方を見て口を開く。

「シュウさんまたやったんですか!?技術部の皆さんは軍属だけど軍人じゃないんですよ。『客先』では準備運動までって、何度言ったら分かってくれるんですか!?」

「あれでも準備運動なんだよ!訓練場なら手ェ抜くなって俺が怒られる程度だったの!」

「血が出たらダメなんですって!」


あのカレンが、普段は控えめで、遠慮がちで、自分の意見は努めて柔らかく伝えてくるカレンが……全く遠慮のない物言いをしている。

その光景にひどく驚いた。


「あーもー、わかった!俺が悪かった!反省するって」

「本当ですね?今度こそちゃんとしなきゃ駄目ですからね?」

「わかったよ!」


シュレインもシュレインで、さっき他の同僚に止められた時は聞く耳持たない勢いで殴り飛ばしていたのに、カレン相手には素直に謝っている。

「もー。ほんっと、お前相手調子狂うわ」

「知りません。シュウさんが悪いんでしょ」


カイルさんがそんな二人を見てニヤリと笑みを浮かべる。

「あー、ストックリー。シュレインをお前の『矛』にするから、その調子で頼むわ」

「どういう意味だよ班長」

「えっ、シュウさんが担当なんですか?」


カレンはぱぁっと笑顔になったかと思うと、数秒考えて眉を下げる。

「あの、シュウさん。社交の時、他所の護衛と喧嘩しないでくださいね……?」

「ぶっ、くく、……っふ……」

カイルさんが思いっきり吹き出し、堪えきれないようでそのまま可笑しそうに肩を震わせる。


「あーもー、……ったく、お前が俺のことどう思ってるかよく分かったわ」

シュレインは憮然としながらも本気で怒っているわけではないのだろう、髪をかき上げて肩をすくめた。


「ちゃんと守ってやるし揉め事おこさねぇよ。安心しとけ」

「ふふ、ありがとうございます!よろしくお願いします!」

満面の笑みを浮かべるカレンの頭を、ポンポンと撫でながら、シュレインは会議室後方に移動して壁際で待機姿勢になる。


ゼフトが話し始め会議が本格的に開始するが、どうしても気になってカレンに小声で話しかけてしまう。

「……仲良いの?」


カレンが僕の方を見て、菫色の綺麗な瞳を細める。

ここ最近で一番自然な、いい笑顔だった。


「シュウさんは、護衛官時代の私の相棒なんです!」

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