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どうしてそんな、死ななければいいみたいなこと……。
手が震える。胸がきゅっと締めつけられて、息も詰まりそうだった。
嫌だ。
リュート様が倒れるところなんて、苦しむところなんて、見たくない。
でも、リュート様がこんなに望まれていることに反論する勇気もなくて……。
「サンビタリア、話の続きを」
「私は、お側にいてもいいですか?」
「本の術式次第だけど、基本的には居ないほうがいい。さっきからどうしたの?」
「わ、私は支援術士です!同席すれば何かお力に……」
「――カレン・サンビタリア」
いつもより硬質な声が室内に響き、リュート様の魔力で室内の空気が一気に重くなる。
「仕事をして」
「……っ」
今まで業務上のミス等で注意を受けることは多々あったけれど、ここまで明確にお叱りを受けたのは、初めてだ。
お叱りを受けた事実と魔力の重さに、肩が震える。
リュート様のお気持ちはわかるつもりだ。
危険な仕事だけれど、リュート様ご本人は楽しみにしていらっしゃる。それなのに新米補佐官がウダウダと口を出していれば苛立つのは当然だろう。でも……。
「……しちゃ、……ですか」
「なに?」
「しっ、心配しちゃ、駄目ですか!?」
声が震え、最後の言葉が掠れた。
なんで誰も、リュート様の心配をしないのか分からない。本人すら、他人事みたいに話して――。
リュート様に万が一のことがあったら嫌だ。違う、本当は、ほんの少しでも傷付くのは嫌だ、苦しむのは嫌だ。
そう思う事は、そんなに変なんだろうか。
初めてリュート様に反論したという事実に、体の震えが止まらない。胸が苦しい。心臓がばくばくとうるさくて、呼吸もうまくできない。
涙も出てきそうになるがここで泣いて見せるのは違う気がして、必死に堪える。
「…………は?」
そんな私の様子を見てリュート様は心底驚いたようで、目を見開いてこちらを凝視している。
いつも無表情のリュート様の、表情が動くところを見たのはこれが初めてだった。
涙が堪えきれず、一粒だけ眼から溢れたので慌てて拭う。
それをきっかけに少しだけ冷静になれて、自己嫌悪した。
リュート様本人もゼフト部長もトベラ様も、長く働いている方は皆、心配していないのに、事情も知らない新人が何を騒いでいるんだろう。
私が一人で感情的に喚いても皆様の手を煩わせるだけなのに。
「……取り乱して失礼しました」
頭を下げても、リュート様は応えてくださらない。
気が付けば室内の魔力圧は戻っているけれど、鬱陶しい部下に嫌気が差してしまっただろうかと恐怖が襲ってくる。
しばらくの沈黙の後、リュート様がようやく口を開いた。
「サンビタリア、顔あげて」
顔を上げた私のそばに、リュート様が歩み寄る。
いつもの無表情だけれど、纏う空気からもう怒っている様子はなさそうだった。
「本当にそこまで危ない案件じゃない」
「……はい」
「キミは僕の補佐官だ。それこそ僕に何かあった場合を想定すると、作業に同席して一緒に体調を崩していい立場じゃない。わかる?」
「はい」
「宮廷魔導課からの依頼はこれからだって何回もある。毎回騒いでたらキリない」
「…………はい、申し訳――」
「それから」
私の謝罪を遮って、リュート様から声がかかる。
「心配してくれたことには感謝する……ありがとう」
見慣れた人しかわからない程度、本当にほんの僅かだけど。リュート様の目尻が確かに緩む。
お怒りが解けた安心感と、意識して表情を見せてくださったという事実に目頭が熱くなる。
「はい、……申し訳ありませんでした」
「じゃあ、スケジュール調整しようか。念のため3日くらいは僕が不在になる想定で」
「はい。……あの、それやっぱり体調崩す想定ですよね?」
「頼りにしてるよ、心配性な僕の補佐官さん」
「ううううぅ……」
それから3日後、リュート様は古書の解析と解呪に取り掛かった。




