第5話:集う仲間たち
廃墟の片隅に再び灯りがともり始めた頃、人々はざわめき始めていた。
「中央から落ちた天才が、本当に研究区画を動かした」
「出自でなく実力で評価される都市を作るらしい」
そんな噂は、情報網も新聞もないこの廃棄都市で、驚くほど速く広がっていった。
そして、集まってきた者たちは皆、どこかが壊れていた。
最初に現れたのは、小柄な少女だった。
フードを目深にかぶり、右手には金属製の杖。無言でアクセス端末を覗き込んでいたその少女は、自らをリアと名乗った。
「セキュリティ系は私が見る」
第一声から無駄がなかった。
そしてカイが試しに旧データベースへの侵入を頼むと、彼女はわずか十二分で解読を終えた。
「解析速度、標準の3.2倍。……いい能力を持ってるな」
カイは目を細めた。
リアは中央の“倫理規定違反”で追放された天才ハッカーだった。
二人目は、廃墟の奥から現れた。
黒髪をオールバックに撫で付け、白衣を羽織った男。顔の左半分が機械で覆われていた。
「名前はクロエ。かつて医療義体部門で手術記録を偽造した罪で中央を追われた」
そう自己紹介すると同時に、彼はリアの体の不具合を一瞬で見抜き、治療を始めた。 正確で、そしてどこか慈悲深かった。
「脚が腐ってるんだ。ここじゃ、治療できる奴が少なくてな。久しぶりに医者の仕事をした気分だ。美人なのにもったいない」
リアはふいに頬を赤らめ、帽子を深く被り直した。
三人目は、誰の予想も裏切った。
地響きと共に現れたのは、巨大な装甲を背負った女だった。
その名をバルナ。元・機動兵団の重装歩兵部隊出身。中央で上官を殴った罪で除隊。今は自警団もどきの一員として、廃棄都市の治安を力で保っていた。
「“実力だけだけがモノを言う都市”?……いいじゃねぇか」
「その理屈に筋が通ってるなら、あたしはあんたの盾になる」
無骨な言葉とは裏腹に、彼女の瞳にはまっすぐな光があった。
こうして、異端の者たちが集まりはじめた。
中央に拒まれ、価値を否定され、それでも――何かを証明したい者たち。
カイは、かつてなかった感覚に包まれていた。
自らの言葉に誰かが応じる。それは中央の時代には決して得られなかった共鳴だった。
夜。稼働音が鳴る施設の中、カイは演算装置の隣に立ち、独り言を呟く。
「これで……やっと、始められる」
名前すらまだないこの実験都市に、確かに“心”が芽生え始めていた。