再起の地
セントラルの空は、今日も人工的に晴れていた。
だがその青は偽物だ。
内側に貼りついたスクリーンが描き出す、制御された“空”――。
それを背にカイはセントラルを後にした。
カイはそのまま今では地図からも消された区域に向かう
かつては物流と研究の拠点として栄えた区画。
そこは、上層から「効率が悪い」「再建の価値なし」と見なされ
行政記録からも削除された廃棄都市だった。
住まうのは居住権を持たない未登録民。
中央から追放された学者、役目を終えた軍人、身分偽装者たち。
制度に拒まれたあらゆる者が、行き場を失って流れ着く社会の墓場だった。
カイは、かつて研修の一環で訪れたときの記憶を頼りに、地下アクセスルートを通じてそこへ足を踏み入れた。
瓦礫。酸化した金属臭。
すれ違う人々の目には希望の色がなかった。
だが、その目がふとカイを見て――ある者は囁き、ある者は眉をひそめた。
「……あいつ、カイじゃねぇか?」
「中央から落ちた天才……?」
すぐに男が一人、声をかけてくる。
「おい、天才くんよ。生きてたのか。
お前が落ちたって聞いたときゃ、中央も終わりだと思ったぜ」
そう言って笑ったのは、元軍所属の改造戦闘兵――ゲイルだった。
「ここは、中央から落ちた人間の吹き溜まりさ。
価値を見出されなかった頭脳、都合の悪い過去を持つ者たち……
だがな、そういうやつらが集まると、妙に面白いことが起きたりする。歓迎するぜ」
男――ゲイルは、片腕が機械義手になっていた。
腐食を防ぐための黒い包帯が巻かれている。
彼の義眼が青く発光しながら、カイを値踏みするように見つめていた。
「お前みたいな“若い天才”がこの場所に来るなんてな……中央もだいぶ底が抜けてるようだ」
「俺は自分の意志でここにきたんだ。ここに拠点を作るためにな」
カイは静かに答える。
「ここには、まだ“論理”が残ってる。
上じゃ、数値が正しくても出自で判断される。
それなら、数値だけで生きていける場所を自分で作るしかない」
ゲイルは煙草に点火し、一口吸って煙を吐いた。
「よし、一つ貸しを作らせてもらおうか。
この先に、潰れた研究区画がある。
冷却ユニットは死んでるが、演算コアが残ってる。
……使えるか?」
「十分だ」
カイの目に、微かな光が灯る。
「なら案内してやる。ただし――この場所のルールは一つだ」
ゲイルはくるりと振り返り、肩越しに言った。
「“過去の肩書き”は、ここじゃ通じねぇ。
中央で何だったかより、ここで何を成すかが全てだ」
カイは無言で頷いた。
それは、追放された天才にとって、
“初めて等しく提示された条件”だった。