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孤児という理由で世界に否定された天才、世界の頂点を目指す  作者: 雷覇


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第26話:レイモンドの最期

セントラル中枢、第1議会室。


混乱の続く都市の最奥では、かつてレイモンドが牛耳っていた評議会の緊急招集が行われていた。数多のホログラム端末が並び、評議員たちの険しい表情が次々に映し出されてゆく。


「……一体これは、どういうことだ?」


「中枢防衛網がすべて停止。武装は機能せず、市民が蜂起。しかも――」


「中核の制御キーが奪われたと聞いているぞ!」


重圧の空気の中、議場の視線は一斉に、中央の人物へと注がれる。

レイモンド。


かつて誇り高くこの都市の秩序を司ったその男は、今や冷や汗を浮かべながら睨み返していた。


「貴様の独断によって、カイという危険因子を追放し――そしてそのカイに、我々は敗れた!」


「正当な技術者を蔑ろにし、血筋を重んじた結果がこの有様だ!」


「レイモンド、責任を取れ!」


怒声が飛び交い、評議会はついに彼を庇うことをやめた。

レイモンドは立ち上がる。だがその瞳は、もはや以前のように冷静ではなかった。


「貴様ら……今さら私に全責任を押しつけるつもりか?

違う! あれは、カイが、あの忌まわしい小僧が仕組んだことだ!」


だが誰も、その叫びに耳を傾けようとしない。

むしろその逆上ぶりに、冷ややかな失望の視線が増していく。


一人の議員が静かに告げた。


「すでに外部との通信を切断したとの情報もある。お前が最終兵装を起動させたこともな。……もはや、お前はこのセントラルにとって、最大の危険因子だ」


「――追放で可決する」


ホログラムの中で、投票マーカーが次々に「Yes」を示す。


レイモンドは、その光景を呆然と見つめる。

かつて自分の掌中にあったはずの評議会が、今や敵意の塊となって自らを包囲していた。


「……私は……正しいことをしたはずだ……この秩序を、守ってきたのは、私だ……!」


震える声。だが、もう誰も応じない。

議会のホログラムが一斉に切断されると同時に、室内に警備ドローンの起動音が響く。追い詰められた男の、孤独な背中が、セントラルの崩壊を象徴していた。


崩れかけた高層ビルの麓。かつて「秩序の象徴」として聳えていた棟の前には、怒号と足音が鳴り響いていた。


人々の顔には怒りと、恐怖の向こうにある初めての自由への熱が宿っている。

バリケードは破られ、装甲車両も転倒し、もはや旧体制の影は地に堕ちた。


その中心に一人の男がいた。

レイモンド。

かつて都市の頂点に立っていた男は、背後のビルの影に身を隠そうとしていた。


「いたぞ!」

「こいつが……あのレイモンドだ!」

「親を奪われたのも、資格を剥奪されたのも……全部あいつのせいだ!」


怒声が、四方から浴びせられる。


レイモンドは乱れた髪を掻き上げ、かつての威厳を取り戻そうと足を踏み出す。


「貴様ら……その程度の雑兵が、私を裁けるとでも……」


しかし、声は震えていた。

目の前の民衆は、かつて支配されていた者たち。

そして今や、抑圧を越えて“覚悟”を持つ者たち。


一歩、また一歩と迫ってくる。


そのなかの一人が叫ぶ。


「俺の妹を、実験に使ったのはお前だろう!」


レイモンドが振り返ると、別の男が鋼の棒を持ち上げていた。


「俺の仲間を選別落ちにしたのも……全部……!」


レイモンドの足が、自然と後退する。


「待て……私は……私は“秩序”を守っていたんだ……!」


だが、誰ももう耳を貸さない。


「その“秩序”のために、俺たちを踏みにじったのか……!」


灰煙が空を覆い、廃墟と化した広場には破壊されたホログラムパネルの残骸が散乱していた。

中央には、ひときわ孤独な影――レイモンドが立っていた。


黒い外套は埃と焦げで汚れ、肩で息をするその姿に、かつての余裕は微塵もない。

背後には崩れた統治庁の瓦礫。前には、武器を手にした市民たちが迫っていた。


「レイモンド……! お前のせいで、娘は選別から外された……!」

「父さんが連れて行かれたのも、あの“適正処分”とやらのせいだ……!」


叫びとともに、人々が囲む輪がじわじわと狭まっていく。

レイモンドは後退しながら、手を上げた。


「待て……私は秩序を守っていた。セントラルのためにだ……!」


しかし、その声に耳を貸す者はもういない。


「秩序? ふざけるな! お前が守ったのは“選ばれた血”だけだ!」

「俺たちを、捨て駒にしたのは誰だ!」


一人の青年が、金属バットを手に前に出た。

その顔には涙と怒りが混じっていた。


「兄さんはお前の命令で、研究施設に連れていかれて帰ってこなかった……!」


レイモンドの口がわななき、声にならない言葉が漏れる。

彼の視線が揺れた瞬間、背後から石が飛ぶ。


「っ……!」


額に傷が走り、血が一筋垂れる。

崩れた威厳をさらけ出した瞬間、暴徒の一団が一斉に動いた。


「動くなッ!」

レイモンドは腰の警告銃を構えかけるも、その手は震えていた。

一発も撃てずに、武器は叩き落とされ、地面を転がる。


「やめろ! 私はこの都市を作ったんだ! 私がいなければ、お前たちは今も下水で暮らしていたはずだ!」


「その通りさ。だが今、お前がいるからこそ、俺たちは地上に立てない!」


鉄パイプが振り下ろされる――


「うぐっ……!」


腹を蹴られ、地に膝をつく。

靴の裏が、顔を打ち据える。

金属片が頬を裂く。

地面に倒れたレイモンドの口から、血があふれ出る。


それでも彼は喚いた。


「私は、セントラルを救ったんだ……私が、正しいんだ……!」


だがその声は、もはや誰にも届かなかった。

最後の一撃が頭上に振り下ろされる――


「これが、お前の作った選別の結末だ……!」


鈍い音と共に、レイモンドの視界は、暗転していった。

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