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孤児という理由で世界に否定された天才、世界の頂点を目指す  作者: 雷覇


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第24話:セントラル脱出

金属音が静かに響いた。

拘束室のロックが外され、重い扉が開く。


「……カイ……」


リアナが目を見開く。

その姿は憔悴しきっていたが、その瞳だけは鋭く怯えてはいなかった。


「無事だったか」と、カイは静かに呟きながら彼女のもとに駆け寄り、拘束具のロックを解き始める。


冷たい鎖が床に落ちる音。

だが、解放の音のはずなのにリアナは泣くでも、安堵するでもなかった。

代わりに、声を震わせながら言った。


「……どうして来たのよ!」


カイの手が止まる。

リアナは腕を振り払うようにして立ち上がり、睨みつけた。


「来たら、あなたが捕まるかもしれないって分かってたはずでしょう!

捕まったらあなたがどんな目に遭うか……どうして!」


彼女の声は怒りと悲しみに満ちていた。

その瞳には、恐怖よりも重い何かが宿っていた。


カイは短く息をつき、静かに答えた。


「……お前がいたからだよ」


「え……?」


「俺は、お前が助けてくれたから、生き延びてここまで来られた。

だったら今度は、俺がお前を信じて、救いに来る番だろう?」


リアナの肩が震える。


「バカ……本当に、バカ……!」


涙がにじんだ。

怒りも、後悔も、罪悪感も、すべてが入り混じって、彼女はただ、カイの胸に顔を伏せるしかなかった。


カイは何も言わず、静かにその背中を抱きしめた。

この時だけは、互いに言葉を交わさずとも――すべてが伝わっていた。


警報が鳴り響く中、カイはリアナの手を引いて薄暗い通路を駆ける。

頭上の赤い警告灯が点滅を繰り返し、セントラル中枢の施設全体が異常事態に包まれていた。


「待って……このままじゃ、すぐ包囲されるわ……!」


リアナが息を荒げながら言う。

彼女の体力は限界に近かった。

それでもカイは、決して手を緩めない。


「大丈夫だ。クラリッサが道を作ってくれている」


その言葉が終わるか否かのうちに、カイの耳に通信音が届く。


《こちらクラリッサ。構造マップ掌握完了。予備動力をハッキングし、地下冷却線ルートを開放します》


「よし……!」


カイはリアナの手を引き、左手の壁を蹴って別ルートに飛び込む。

直後、背後の通路に警備兵たちの足音と怒声が響いた。


「発見! 目標は南通路へ――!」


だが、追いつく前に――


「今だ!」


クラリッサの声が通信越しに響いたと同時、周囲の照明が一斉に瞬く。


その瞬間、通路の天井が音もなくスライドし、隠されていた通路が開いた。

白く冷たい空気が一気に流れ込む。


「ここ……冷却管の空間……」


リアナが驚いたように呟くが、カイは迷わず飛び込んだ。

金属と霧の中をかき分け、足音も吸われるほどの静寂の通路を、二人は駆け抜ける。


《追跡部隊が目標位置を見失いました。遮蔽フィールド成功です。最短脱出口へ誘導を継続します》


「助かる、クラリッサ」


《当然です。私は、あなたの盾ですから》


通信の向こうのその言葉に、リアナが目を伏せたまま、小さく呟いた。


「……随分と信頼されてるのね」


カイは一瞬振り返り、静かに笑った。


「だが、お前を信じたのは俺だ」


リアナの頬に、わずかに赤みが差す。


やがて二人は、開かれた格納庫へと抜ける。

クラリッサが事前に用意したエデン便の偽装輸送機が待っていた。


「ここから出るぞ」


「……ええ、一緒に」


リアナの声は震えていたが、それはもう迷いの色ではなかった。


輸送機のハッチが閉じる直前、セントラルの追手がようやく辿り着く。

だが時すでに遅く、クラリッサが遠隔でハッキングし、彼らの装備を一瞬で沈黙させた。白い光の中を、二人を乗せた機体は夜の空へと消えていった。


セントラル中枢・作戦管理棟。


報告と怒声が飛び交い、いつもの無機質な空間がざわめきと焦燥に染まっていた。


「カイとリアナ、脱出を確認! 警備網突破、外部輸送機を使用!」


「だが、転送管制室の記録には接触データがありません。正規経路ではない可能性が高い!」


「監視システムは? なぜ侵入に気づけなかった!?」


上層部の参謀たちが次々と詰問を飛ばすなか、モニターに映し出された最後の映像には、逃げるホログラム・カイと、地下施設を駆けるもう一人のカイの姿が並んでいた。


「……まさか、片方はホログラムだったのか……」


「いや、それだけじゃない。システム内部に何者かの協力があった」


「内部犯か?」


「それとも……外部から侵入したAIか」


現場には、誰も明確な答えを持っていなかった。

ただ一つ、明らかになったのは――

セントラルは突破された。


かつて不可能とされた聖域の侵入を、たった一人の男と一人の女、そしてその仲間たちが成し遂げたという事実だった。


そしてそれは、組織全体の神話を揺るがすものだった。

背後から怒声が響く。


現場に姿を現したのは、管理評議会直属の査察官・フォルスだった。

白銀のスーツに身を包み、端整な顔に感情を浮かべることはない。


「裏切者への対応は迅速に。エデンの再封鎖計画を含め、戦略の見直しが急務だ」


レイモンドの不在により、指揮権が一時的に彼へと移行していた。


だが、そのレイモンドこそが、今回の情報流出や拘束の失敗を招いた張本人であると、一部の幹部は静かに疑念を募らせ始めていた。


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