第23話:リアナ救出作戦
カイは硬く握った拳を机に下ろし、低く言った。
「俺が行くしかない。だが……正面突破じゃ、リアナを道連れにするだけだ」
レイナが息を呑む。
「どうするの? 時間がもう……」
「囮を使う」
カイの目が、クラリッサのホログラムを見据える。
「お前にできるか? 完全に俺になりきったホログラムを送り込む。
あいつらが見間違えるほど、完璧なフェイクを」
クラリッサは一瞬、間を置いた後、口元に浮かべたような表情を作る。
「セントラル中枢から得た最新アルゴリズムにより、あなたの身体構造・動作・反応を99.98%再現可能です。
視覚・聴覚・温度センサーも欺ける。本物として認識させることは、可能」
カイの目にわずかに希望の光が宿る。
「なら決まりだ。お前が作った俺を正面に送り込む。その間に俺は裏口から潜入する」
レイナが心配そうに言う。
「でも、気づかれたら……すぐに囲まれるわ。逃げ場も――」
「気づかれる前に助ける。それだけだ」
カイはすでに決意していた。揺らぎのない声だった。
「やつらに目にもの見せてやる」
クラリッサのホログラムが、カイと同じ動きで片腕を上げる。
「了解。囮ユニット――起動開始。
偽装シグナル発信まで、カウントダウンを開始します」
レイナはカイの背中を見つめながら、心の中で祈った。
(お願い……間に合って。今度こそ、誰も失わないで)
セントラル中枢区域、監視タワー。
「侵入者だ! 本部前広場にカイらしき人物を確認!」
警報が鳴り響き装甲兵が配置につく。
広場の中央に現れたのは黒衣をまとって静かに立つ少年の姿。
「やはり……来たか」
監視室で映像を見つめるレイモンドが、ゆっくりと立ち上がった。
「本当に、愚かだ。リアナ一人のために、死にに来るとはな」
ホログラムのカイは無言で前進する。
拡声器が警告を発する。
『身元を明かせ。さもなくば即時排除する――』
その瞬間、ホログラム・カイが動いた。
僅かに足を傾け、疾風のように走り出す。驚異的な反応速度と動き。
監視班の一人が声を上げた。
「止まれ!……さもなくば発砲する!!」
動揺が走る。レイモンドもまた、わずかに目を細めた。
「……無駄なあがきを」
それがホログラムであることにまだ誰も気づいてはいなかった。
一方、裏手の排気路――
クラリッサの支援を受けたカイは、セントラルの旧工場施設の隙間を通り
影のように進んでいた。
「クラリッサ、センサーは?」
『範囲外へ誘導済み。現在、中央指令室に警戒が集中しています。リアナの位置を送信中』
ホログラフマップに表示されるのは、リアナが拘束されている区画。
「そこか……もう少しだ」
カイは静かに拳を握った。そこには、かつて共に夢を語った少女がいる。
彼女は今、囚われの身となりながらも、自分を助けようと情報を送ってくれた。
――もう、誰にも失わせない。
警備の死角を抜け、旧搬送路のゲートを開く。
鉄の軋む音がかすかに鳴り、冷気の漂う通路の奥へ、カイは踏み込んだ。
一方その頃、レイモンドは監視スクリーンに映るカイをじっと見つめていた。
眉間にしわを寄せ、その動きを観察する。
「……妙に落ち着いているな。ふん……堂々としたものだ」
冷ややかな視線を向けながらも、内心では中々仕留められないことに苛立っていた。
(ここまで来るとは……まったく、どこまで愚かなんだ。さっさと沈んでしまえ)
そう皮肉に笑ったそのとき、扉が乱暴に開き、通信兵が息を切らせて駆け込んでくる。
「レ、レイモンド様! 非常事態です!拘束室付近で不正アクセスを検知しました!そこにはあのカイの姿があったと!」
「何だと……?」
レイモンドの表情が一瞬だけ凍りついた。
カイは今、目の前にいる。だが、同時に別の場所で動いているという報告。
(……まさか、偽物? いや、それとも――)
答えの見えぬ疑念が一瞬胸をよぎったが、考える時間はなかった。
「全隊、急行させろ! いいか、リアナを絶対に逃がすな。失えば……全てが狂う」
怒声とともに命令が飛び、施設中が緊迫の空気に包まれていく。
レイモンドは再び画面を睨む。そこに映るカイの瞳は、まるで何もかも見透かしているかのように、静かに燃えていた。




