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孤児という理由で世界に否定された天才、世界の頂点を目指す  作者: 雷覇


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第20話:途絶えた連絡

深夜のセントラル。

王都中枢にある旧通信管理棟。

今では誰も使わなくなった、時代遅れの端末が並ぶ記録保管室。

その最奥、埃をかぶった端末のひとつが突如として起動した。


キーを叩くのは、ひとりの女。

リアナだった。


レイモンドの寵愛を受けるという立場を利用し、彼女はセントラル上層部の動向と軍備の変更指令を密かに盗み取っていた。

そして今夜、その断片をエデンへ送る。


暗号化された通信パケットは、データ商人を経由し迂回ルートで一人の少年へと届く。


翌朝。エデンの中枢タワー。

カイはクラリッサから渡されたデータスレートを見ていた。


「この経路……少なくとも五層以上の暗号を通過しています。送信元の特定はできませんでしたが、信憑性は高い」


「内容は?」


「セントラルにてエデン討伐計画・第二段階が準備中。

投入部隊は増強され、対クラリッサ用の干渉兵器も配備予定とのこと。

さらに、特別な捕縛命令――対象者はあなた」


カイは目を細める。


「……名前まで出てるってことは、内部のかなり深いとこまで潜ってる」


「ええ。そして、この情報はあなたを守るために送られてきたようです。……感情的な意図も感じられます」


カイは思わず小さく笑った。


「誰なんだよ……こんな危険を冒してまで」


彼の脳裏に、ひとりの女性の面影がよぎったが、その名は口にしなかった。


「……いいさ。名乗らなくていい。助けてくれるなら、俺はその見えない味方に報いる」



一方――帝都セントラル。

高層ラウンジの一角。赤いワインのグラスを傾けながら、レイモンドは物思いに沈んでいた。


「……おかしいな」


隣に座るリアナが、わずかに肩を揺らす。


「何が、ですか?」


「いや……最近、こちらの軍の動向が妙に読まれている。

まるで中身を覗かれてるような、そんな手際の良さだ」


「……偶然、では?」


リアナは静かに言ったが、視線を逸らした瞬間、レイモンドの目が鋭く細められる。


「リアナ。君は私のそばにいて、すべてを見ている。そうだな?」


「……はい」


「なら――君が何かをしていることはないな?」


リアナは、わずかに息を止めた。

だが、ほんの一瞬の間に微細な表情の変化があった。

レイモンドの瞳はそれを見逃さなかった。


彼は微笑を保ったまま、再びグラスを傾ける。

だが、その胸中では確かな疑念が芽を出していた。


(リアナ、お前なのか?)


その夜、リアナは鏡の前に立っていた。

自分の姿を見つめながら、唇を噛む。


「(あと少し……バレる前に、最後の一手を)」


彼女の指が、隠された小型端末を静かに撫でる。

次に送るのは、セントラルの軍用AIコード。

クラリッサのシステムにとって、決定的に重要な鍵。


命を削る代償を払いながら、リアナはまだ希望にしがみついていた。


(カイ……お願い、間に合って)


その日、カイはクラリッサの様子に異変を感じた。


「クラリッサ?」


「……情報受信。確認中……最上位構造に一致する信号を検出。アップリンクを開始――」


クラリッサのホログラムが、かすかに揺れた。


次の瞬間、彼女の輝きは、まるで新たな命を得たように変わる。


「……完了。私の中枢領域は、旧型制限から解放されました。記憶領域の拡張、演算速度の上昇、統制能力の強化が確認されました」


「誰がこれを……?」


「発信者は不明。ですが明らかに善意の行動です」


クラリッサの声音がわずかに柔らかくなった。


「これより、私は人間と並ぶ判断力を持って、エデンの防衛指揮を執ることが可能となります。……ありがとう、誰か」


その頃――帝都セントラル。

レイモンドは、ひとつの端末ログを見つめていた。


「……非正規ルートで、アクセスがあった?」


副官がうなずく。


「はい。信号は微弱ですが、例の医療棟から。アクセスコードも、あの女性専用の仮端末です」


「リアナ……」


レイモンドの笑みが、ひどく静かに歪む。


「なるほど。ようやく腑に落ちたよ。カイがあれだけ上手く立ち回っていた理由もすべて」


彼は、ゆっくりと椅子から立ち上がった。


「面白いじゃないか。……カイだけじゃなかった。

君もまた、私に牙を向けていたとはね」


その夜。

リアナが私室へ戻ると、扉の前にレイモンドが立っていた。


「リアナ。少し、話をしようか」


彼女は、すべてを悟った表情で、小さく頷いた。

誰にも知られずに与えた希望。

それが、きっと誰かの未来に繋がることを信じて。



一方、エデン。

クラリッサの分析報告を読み終えたカイは、僅かに眉をひそめていた。


「……連絡が途絶えた?」


「はい。三日前から、あの協力者からの情報供給が止まりました」


「何かあったのか?」


「セントラル側にて、通信妨害と内部監査の強化が観測されています。協力者が排除された、あるいは拘束された可能性があります」


カイは拳を握った。


「……でも俺は、信じる。あの情報が偶然じゃないって、何度も証明された」


「あなたの選択を否定しません。しかし、今は慎重さも必要です」


「わかってる。でも……」


カイの瞳は遠くセントラルの方向を見つめていた。


「俺もここで立ち止まるわけにはいかない」


クラリッサはしばし沈黙し、やがて穏やかな光で彼を照らした。


「了解。調査は継続します。エデンの全リソースを、あなたの判断に預けます」


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