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孤児という理由で世界に否定された天才、世界の頂点を目指す  作者: 雷覇


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第15話:任務失敗の責

静かな調べが流れるラウンジ。

黒曜の床に響くのは、疲れ切った一人の足音――それは、エランだった。


「……戻ったか」


振り返ったのは、レイモンド。

その傍らには、変わらず数人のお気に入りの女たちが並ぶ。


「任務は失敗しました。最終指令の発動には至らず、回収もできなかった」


エランは短く報告を終える。無駄な弁明は、ここでは許されないと理解していた。

レイモンドは、グラスの中の赤い液体を眺めながら言った。


「ふむ、失敗か……。いや、最初からそうなる気はしていた」


「……?」


「君は、任務の最後に感情を見せた。報告書にすでに上がっている。

カイへの直接排除にも踏み込まなかった」


レイモンドは顔を上げる。

その眼差しは、鋼のように冷たく、断罪の色を帯びていた。


「つまり君は、使い物にならなくなったということだ」


エランは黙って拳を握った。


「……俺は、命令に従った。最善を尽くした」


「最善? 結果がすべてだよ、エラン。

この社会は過程を評価しない。君は終わった。だから処分する」


その言葉が落ちた瞬間、複数の無機的な音が鳴った。

白衣の処理員たちが、無言でエランの背後に立つ。


「貴様……!」


「最後に忠告を一つ。

この世界では、道具であり続けることだけが、命をつなぐ方法なんだよ」


レイモンドは冷笑を浮かべながら、ワインを飲み干した。

エランは唇を噛み、ゆっくりと処理員たちに従って歩き出す。



――セントラル・機密隔離区画

鈍い蛍光灯の下。

両腕を拘束された状態で、エランは無言のまま狭い独房に押し込まれた。


「ここで最終処分を待て、とのことだ。命令には逆らうなよ、エージェント」


処理員が去ると同時に、重い扉が閉まる。

その瞬間、エランの目に一瞬だけ、わずかな光が宿った。


(……このまま終わるわけにはいかない)


左手の指輪。

表面はただの金属製アクセサリーだが、内部には非公認の暗号化通信ユニットが仕込まれていた。本来は緊急用だが、今の彼に必要なのは最後の告発だった。

エランは指先をわずかに動かし、歯を食いしばりながら通信コードを叩き込む。


データの転送先は――エデン中枢AIクラリッサ

彼女を通じ、唯一信頼できる人物――カイの端末に直接届けられる。

転送完了と同時に、独房内の警報が鳴り響く。


「……やはり、気づかれたか」


身体が震えていた。

だが、心の奥にあったのは――奇妙な安堵だった。


(せめて、お前になら……託せる)


誰よりも自由を求め、誰よりも血の呪いを憎んでいたあの少年。

エランは自分とは違う未来を生きる者に、最後の鍵を預けたのだ。

扉が開く。処分班が入ってくる。


エランはもう、抵抗しなかった。

その瞳には、敗者の陰ではなく、遺言を果たした者の光が灯っていた。


ホログラムを睨むカイの目に、次々と浮かび上がる機密情報。


「これは……レイモンドの――」


隣でクラリッサが静かに言う。


「送信者の正体は特定済み。潜入エージェント・エラン。……処分済みです」


カイは拳を握りしめる。


「……彼は、裏切ったのか?」


「彼は、この情報を伝えることを選びました。信頼しての行動と推定されます」


カイは目を伏せた。


「……受け取った。無駄にはしない」


そして彼は、レイモンドそしてセントラルという巨大な壁の構造を、初めて知ることになる。


都市の灯が遠くにきらめく静かな夜。

カイはフェンス越しに広がる景色を眺めていた。

その背後から、静かに足音が近づいてくる。


「……カイ」


振り返ることなく、彼は言う。


「どうした。こんな時間に」


「話があるの」


その声に、ただならぬ決意が滲んでいることに、カイは気づいた。

ゆっくりと身体を向け、彼女の目を見る。


レイナはほんの一瞬だけ視線をそらし、そして口を開く。


「私は……もともと、セントラルから送り込まれたエージェント。エランと同じ」


風が吹き抜ける。

しばしの沈黙。


カイは驚くことも、声を荒げることもなかった。


「ごめんなさい。謝ってすむことじゃないのはわかってる」


「……じゃあ、今は?まだセントラルの為に働く?」


レイナは目を伏せ、少し震える声で言った。


「今は……もうセントラルなんてどうでもいい。あなたの言葉に、行動に……心が動いたの。どうしようもなく」


カイはしばらく彼女を見つめたまま、やがて静かに言った。


「……ありがとう。話してくれて」


「え?」


「潜入者だったってことも、嘘をついてたってことも、別に驚かない。

誰でも、最初はどこかから来て、何かを隠してるものだ」


カイはそのまま、レイナの肩に手を置く。


「だけど今、君はここにいる。俺たちと共にあって、何かを選ぼうとしてる。

それなら仲間として、十分だ」


レイナの目が見開かれる。


「……どうして、そんなふうに……?」


「俺だって、もともとこの社会には居場所がない存在だった。

だからわかるんだよ、選んだ場所でどう生きるかが、本当の価値なんだって」


レイナの瞳に、初めて涙がにじむ。

彼女は言葉もなく、カイの胸に額を押し当てた。


(……この人のそばにいたい。命令じゃなく、自分の意思で)

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