チャンスを奪われた俺と、チャンスに乗った彼女
あれは1年前――
俺の中で、何かが音を立てて崩れた日の記憶だ。
場所は、辺境惑星オルディナ
植民都市の隅にある孤児院。
その裏庭で、俺とリアナは最後の会話を交わした。
「……カイ、聞いたわ。
あなた、“航行士適正試験”に落ちたんですってね。」
リアナ
かつては、俺にとってこの世で最も信頼していた存在だった。
同じ孤児として、泣いて、笑って、星を夢見て共に歩いてきたと思っていた。
「…驚いたわ。あなたのことだから、てっきり受かると思ってたのに。」
そう言いながらも、彼女の口調に同情はなかった。
むしろ、その目には安堵のような色さえ浮かんでいた。
「でもね、カイ。現実を見なきゃいけないのよ。私たちみたいな“出自に難あり”の人間は、
どんなに頭が良くても、どんなに結果を出しても結局は上には上がらせてもらえないの。」
――わかっていた。
俺は筆記で最高点を取った。
実技でも教官たちが舌を巻いた。
なのに、最終審査で“人格面に問題あり”という理由で不合格を言い渡された。
つまり、孤児にはふさわしくない――それが、本当の理由だった。
「そんな中で、私はチャンスを掴んだの。バルナ・グループのレイモンドさんが、
私を“パートナー”に迎えたいって言ってくれたの。
愛人として、そして将来的には事業の一部門を任せたいって。」
リアナは誇らしげに言った。
それは誇りというより、自分を納得させるための鎧のように見えた。
「…軽蔑してる?でもね、カイ。
あなたがどれだけ優秀でも、現実が変わらないのなら、
私は“勝てるルート”を選ぶしかなかったの。」
そして、彼女は少しだけ視線を伏せ、
少しだけ…懐かしさをにじませて言った。
「もし、私が本当に成功した、その時は、あなたを雇ってあげる。
ちゃんと肩書きも、住む場所も用意してあげる。
私の“下”で働くことになるけど、それでもあなたなら、ちゃんとやれるでしょ?」
その一言で、心の奥底に残っていた何かが凍りついた。
まるで“憐れみ”という名のナイフで刺されたようだった。
「じゃあ、元気でね。カイ。
あなたはあなたの現実を生きて。私は、私の現実で這い上がるから。」
リアナは、それきり一度もこちらを振り返らずに去っていった。
あの日、俺は確かに知った。
“正しさ”では救われない現実があることを。
だが同時に――
俺の中で、何かが静かに燃え始めたのも、あの日だった。
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