九年後
二〇一九年
養護施設で育ち早九年、私は十五歳になった。
学費等は教育委員会から支給され、中学校に通っている。
特にイジメとかは無く、平穏な日々を暮らしていた。
放課後、帰る準備をしているとクラスメイトの2人の会話が聞こえてきた。
「なぁ!見たか昨日の魔法少女!」
「あたりめーだろ!俺の推しの西園寺 瑠璃!あのムチの威力ハンパねーよまじで!」
「一回でいいから生で見てぇよなぁ……」
――時は遡り五年前。
東京の渋谷辺りから突如現れ始めた謎の生物、アマルガム。
命名理由は、ありとあらゆる鉄を食べ合金のように融合するのを目撃した人が由来だそう。
出現したその時は解決法などが無く、崩壊が進んでいく一方だったが研究を重ねた結果、一年後に対アマルガム用に開発された戦闘服が完成した。
一人の女性が戦闘服を着た所、体に異変を感じ歩こうとした瞬間……体が宙に浮いたのだ。
どうやらアマルガム特有の性質・物質と女性ホルモンが融合し、謎の超常現象が発生するとの事。
ある者は手から氷を……ある者は口から炎を……。
研究者達はこれを「魔法」と名付け、「魔法少女」が誕生した。
そして現在、それらの魔法を活かしアマルガムに対抗する為の部隊が形成。
「関西組」「関東組」と分かれており各地方で事務所を立ち上げで各々活動している。
「私達進路決めてるよ〜。魔法学園行く予定」
「アタシも〜」
「ぶっちゃけぇ〜アマルガム倒しておけばバイトみたいに金入ってくるのがいいよねぇ〜」
「それな〜マジ神〜」
同じクラスのギャル達が教室の隅っこで話し合っていた。
そろそろ進路を決めないと……と思いつつ、高校に行くか魔法学園に行くか迷ってるところだ。
養護施設は高校の学費も出してくれるのかな?と考えつつ廊下に出る。
魔法少女になって養護施設のみんなに恩返しもアリ……。
でも何も出来ないし体力も運動神経も無い私が魔法少女なんて……。
子供の頃に良く魔法少女のアニメを見せてもらっていた。
いつか私もこんな凄くてカワイイ魔法少女になってみたい。
だけど現実は厳しく、魔法少女になるには幾つか段階を踏まなければならない。
一,魔法学園に入学。
テストは国数英の三教科。面接と魔法力確認。
魔法力というのは魔法を使用する為に必要な力の事で、ゲームで言うMP的な立ち位置。
二,魔法学園を卒業、事務所に所属。
最初は雑務や先輩の付き添い等がメインだそう。
戦場に出れるのは、先輩に認められてからか緊急事態の時だけらしい。
学園で勉学に励んでいても、能力や実力があれば駆け出しも可能との事。
二つの事項をクリアしなければ正式に魔法少女になれない。
私には程遠い世界だ……。
――と、そうこう考えているうちに近くの公園まで来ていた。
視界に何か動いている物を感知し、ふとブランコを見ると誰もいないはずなのに独りでに揺れていた。
「……?」
風も無いのに……なんでだろう?
違和感。
何故か分からないけど、私の第六感が。
逃げろと言ってる。
いつもより早足で帰ろうとした瞬間、舞香の目の前に巨大な何かが落ちてきた。
「うわぁっ!?」
「グルルルルァ……」
得体の知れない化け物が耳をつんざく程の咆哮を放つ。
止まらない汗、整わない呼吸、動かない体。
人間はいざ危機に直面すると固まって動けなくなる。
舞香はやっとの思いで呼吸しているのにも関わらず、段々と近付いてくる化け物。
「桐谷心、対象のアマルガムを視認」
『敵の数は一匹です。今の所被害はゼロですので、倒す際も一般市民に被害が出ないようにお願いします』
「了解」
家の屋根の上に一人の少女が立っており、通信を切った後に腰に付けていた棒状の物を取り出す。
「変身」
取り出した棒を折った瞬間、棒から破片が無数に飛び出し少女の身体に取り付いていく。
やがてそれは一つの服装になっていき、屋根から降りた時にはいつも私たちが見ている魔法少女に変身していた。
少女がこちらに向かって来ており、化け物はそれに反応し振り返る。
「"固有魔法"速度強化」
甲高い音が鳴り始めたと思いきや、既に化け物の顔に蹴りを入れていた。
弱々しい声で倒れる化け物が少女に向かって手を伸ばす。
だが、それを読んでいたかのようにバク転をして化け物の上まで飛ぶ。
「"個人魔法"重力波」
両手を前に突き出した瞬間、化け物が上から潰され重力に押されてそのままプレスで圧死するかのように鉄が飛び散った。
「ふぅ……なぁ〜んだ。意外と弱かったな……あ、大丈夫?」
「……あっ……ありがとうございます無事です……」
服を解除すると再び棒が形成されると同時に、倒したアマルガムの飛び散る鉄も一緒に吸収されていく。
「この辺割と出やすいからね。気をつけて帰りなよ」
「わかりました……」
桐谷はそう言うと、反対方向に歩いて姿を消した。
魔法少女……いつもあんなのと戦ってるのか。
化け物でビビってたら、魔法少女になれっこない。
改めて自分からは程遠い世界だと感じた。
『遠くないよ』
「……っ!?」
何処からか謎の声が聞こえてきた。
というより、脳内に直接聞こえる。
周りを見渡すも、勿論誰も居ない。
魔法少女も、子供も通行人も誰一人。
「気の……せい?」