第9話 開会式
会場のスポットライトの光を直視し、反射的に目を覆う。
そして、鼓膜が破れそうな程の歓声に驚き、しゃがみ込む。
視力が戻ってきて、うっすらと目を開ける。
エキシビジョンマッチの時とは大違いのオーディエンスの数であった。
あまりの数に、緊張し、脚をブルブルと震わせてゲームマスターの居るところまで歩みを進める。
「みんなーっ!今日も見にきてくれてありがとーっ!!モエ、頑張るよーっ!!」
流石、アイドルというべきか、大勢のオーディエンスにも怯まず、アピールをするモエにトーマは感心する。
トーマも恥ずかしがりながらも両手を使って手を振り、アピールをする。
これは一定のファンを付けておくことで、得られるメリット――【メモリー】を得る為である。
確かな事ではないが、オーディエンスの中に投げ銭機能を使う人がいるらしく、彼らがプレイヤーに対して【メモリー】を課金してギフトすることができるようだった。
そして、【デバイス】だけでも普段の身体よりも数十倍の身体能力を得られるが、【メモリー】は特殊な技能を使うことに特化しているようだった。
それを扱えるだけで他の参加者よりも非常に有利に立ち回れることが確かであった。
戦闘力も大きく跳ね上がる為、ハヤトから身を守るには【メモリー】があったほうがいいと感じた。
他の参加者たちもゾロゾロと入場する。
トーマは何かにぶつかり、蹌踉めく。
ハヤトが背後からワザとぶつかってきたようだった。
既にアバターに切り替えており、故意であることが確信へと変わる。
プレイヤーが全員集結し、ゲームマスターがモニターに映し出される。
『やあやあ、ついに始まったよ!【シャドウズ・オブ・ロンギング】の開会式だ!そして、今日はミッションもやっていくよー!』
オーディエンスのテンションは最高潮となっていた。
トーマは呆気に取られながらも、周りを見渡していると一つ気がついた。
「エキシビジョンマッチの時はVIP限定だったのか……!」
「お金持ちだけが見られるやつね……!じゃあ、アピールをしとかないとね……!」
モエの言うことはエキシビジョンマッチとは別に、プレイヤー紹介があるということだった。
トーマはアバターに切り替わろうとしたが、首を横に振ってやめた。
するとゲームマスターがいつの間にか作ったであろうプレイヤーの動画を映し出す。
『先日のエキシビジョンマッチを見られた方は覚えておりますか?もちろん、今日が初見だと言う方の方が多いでしょう!では!プレイヤーの紹介だ!いじめっ子に立ち向かった勇気のある少年!ラビッツ・ファイター:トオォォォォマアァァァァァッ!』
紹介とともにトーマは前に出て、掛け声をかける。
「トランス……オン!」
ウサギ戦士のアバターへ切り替え、アピールをする。
やはりと言うべきか、獣人アバターは人気がないようで、少しだけ会場のテンションが下がっていた。
獣人の姿というものは【人類強化実験】の失敗作というものであり、【新人類】になりたい欲の塊として嫌悪の対象になっていることと、実際問題、獣人に人権を求める運動が少々過激なこともあり、嫌う人は多い。
そういったものであるにもかかわらず、トーマ自ら獣人になるというものがオーディエンスを困惑させた。
『獣人って……なんで自ら失敗作に……?』
「【新人類】様への冒涜じゃないか?」
「ウサギ君かわいい……!」
様々な意見が飛び交うが、トーマは気にしない。
夢にまで見た獣人の肉体だ。
仮の物とはいえ、人間にはない特徴を非常に気に入っているのだった。
特に喋らず、両手を振ってアピールし、他のプレイヤーも次々と紹介されていく。
ゼロの禍々しさは、モニター越しでは伝わらないようで、黒い狼の姿ということでトーマと同じように失望する人や、その風貌に惚れる人など、様々な反応だった。
全員の紹介が終わり、大型モニターにアバター写真とパーセンテージが表示された。
『さあ!出ましたよ!オーディエンスの皆様による人気投票の結果だ!一位はラブリーアイドル:モエだ!二位はストライクソルジャー:ハヤト!三位はブラックチェイサー:ゼロ!四位インテリサイエンティスト:トモヤ!五位ダンシングマダム:ミホ!六位ハウスガーディアン:ミユキ!七位ラビッツファイター:トーマ!八位ヘビーコンストラクター:マサル!以上の結果だ!一位のモエちゃんには特別に【メモリー】をあげちゃうね』
『おいこら!ゲームマスター!反則だろうが!』
『モエちゃんが人気なんだからしょうがないだろ!』
『うっせ!オタクは黙ってろ!公平性がないだろうが!』
『しょーがないなー。ビリのマサル君にも【メモリー】あげるよー。これでいいでしょ?』
ひと悶着があったもののモエとマサルに【メモリー】が配られることでオーディエンスは納得していった。
オーディエンスが落ち着いたところを見計らい、ゲームマスターは進行を再開する。
『いろいろあったけど、それじゃあ、今回のミッションを発表するよー!』
オーディエンスのテンションが最高潮に達し、トーマは固唾をのみこんだ。
モニターにはルーレットが回り、「バーン!」という効果音とともにストップする。
『今回のミッションは……レスキューだ!』
「レスキュー……?人を助けるのかな……?」
「直接戦うわけじゃなさそうだし、大丈夫そうかも……!」
二人は『レスキュー』というミッションに首をかしげながらも、殴り合いでないことに安心する。
『このレスキューというミッションは、怪物から一般市民を守るというもの!人命救助も大事だけれども怪物を倒さないとキリがないからね。それなりに強いから覚悟して挑むように!詳しいルールは【デバイス】で確認し給え!』
トーマはゲームマスターから大まかなルールを聞いた瞬間、ピリッと頭痛がした気がした。
すぐに治まったため、気にも留めず、頭部に装着されている【デバイス】をトントンと突くとゴーグル越しにミッションの詳細ルールが目の前に映し出された。