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第74話 身体の限界

 自宅に着き、扉を開けようとすると内側から開かれ、モエとマサルを落としそうになる。


「やっぱり帰ってきた!アドラさん!帰ってきましたよ!」


「本当にキミの耳は良いね。ノナ君」


「なんで、自宅に上がり込んでるんですか?」


「だって、鍵空いていたもん!」


 トーマは記憶を掘り起こしていくと、母親のイミテーションを倒した後、モエたちのいる所へ飛び出したことを思い出す。

 完全に施錠忘れだ。

 勝手に上がり込むアドラたちに文句を言いたかったが、施錠をしていないトーマにも責任があるため、言い返さなかった。

 取り敢えず二人の治療と休養が先決だと判断し、自宅に入る。

 ノナにモエを任せ、自室で治療を行ってもらう。

 マサルはリビングでアドラから治療を受けることになった。


「獣人に治療してもらうなんてな……」


「それは悪かったね。このまま放っておくと化膿して死ぬけど、どうする?」


「いや、続けてくれ……続けてください」


「うん、それでいい」


 アドラは人間に邪険にされたとしても特に気にする様子もなく、淡々とこなしていた。

 差別されることに慣れているのだろう。

 トーマは間近で見た光景に少し心が絞られるような感覚に陥った。


「トーマ。獣人になるというのはこういうことだ。まあ、君が決めた道なら覚悟はできているだろうけどね」


「……はい」


「よし、マサルと言ったかな?治療は終わったが、一つ話を聞いてほしい」


 畏まった表情でアドラはマサルを見つめると、緊張感が高まる。


「君はもう戦うべきではない。これ以上戦えば確実に怪物となるからだ。」


「ど、どういう事だ!?」


「君たちがアバターに換装するための装備品【デバイス】は擬似的に新人類と同じ力を得る機械だ。身体能力が新人類に適していれば装備者の力を底上げする。しかし、非適合者の場合は出力が一割も出せず、おまけに細胞が反発しあう事で怪物となってしまうのだよ。だから君はもう戦ってはならない」


「い、今までそんなことはなかったはずだが……!わしの記憶間違いでなければそんな事はな――」


「あったんです……!」


 戦う事で怪物なるリスクがある事を否定しようとしたマサルだったが、まさかのトーマに止められた。

 トーマはアバターを解き、自身の姿を見せる。

 耳が完全に白い毛に覆われ、耳自体が若干伸びていた。

 その姿を見たマサルは言葉を失う。


「俺は獣人になりかけてるし、ハヤトは怪物になった……。俺は怪物になったハヤトを殺した……」


「ハヤト……君が怪物に……!?」


「ハヤトというニンゲンが怪物になったのは強さを求めてデバイスの出力を身体の限界を無視したものによるものだろう。大穴送りになるまではこの国に反応があったからね」


 強さを求めてデバイスの出力を上げたという所にマサルは思い当たることがあった。

 マサルとモエは新人類の男に出力を上げてもらっていたという事とデータを取ったという事。

 新人類の男の話振りからするとマサルとモエはもう用済みであり、怪物になろうとどうなっても良いという事が推察できる。

 しかし、トーマは新人類の男のお気に入りであるはず。

 このまま獣化していくのは気に入らないはずだと感じる。


「トーマ君が獣人になるのを止めに来ることはないのか……?」


「完全に獣人になるのならば止めはしないだろうさ。失敗作になることになればそれまでの話。問題は新人類へと変わった場合だね。全力でトーマを捕まえに来るだろうさ」


「そうか……成功した方が危ないのか……って失敗しても生きていられるだけで、人権がなくなるからダメじゃないか!」


「俺は獣人になりたいから別にいいんだけど……」


 トーマが獣人になることに躊躇いがなかったことにマサルは何も言い返せなかった。

 マサルはある疑問が浮かび上がり、アドラに質問する。


「わしもこのまま行けば怪物だけでなく、獣人にもなれる可能性はあるんじゃないか?」


「それはほぼ無いことだな。怪物と獣人には大きな差があり、獣人や新人類になれるものならデバイスの力を十二分に引き出せる。怪物は一割も引き出せなかった者が行く末路だ。マサル殿は間違いなく怪物となる。気を悪くしないでおくれよ?」


 獣人になる可能性すら残されていなかったマサルはがっくしと肩を落として落胆する。

 すると、トーマの部屋の扉が開かれ、ノナが出てくる。

 アドラとトーマの顔を見た後、頷き、トーマの部屋に向かって声を掛ける。


「大丈夫、心配ないですよ?」


「は、はい……」


 変わらぬモエの声を聴き、トーマは安心したため息を吐くと、モエが部屋から出てくる。

 はずだった。

 実際に出てきたのは全身茶色と黒と白の体毛に覆われ、水色のロングヘア、そして、特徴的な丸くて薄い耳、身長と同じくらいの長さかつふわふわな尻尾を持ったヒト、リスの獣人が立っていた。


「誰?」


 開口一番はアドラであり、至極真っ当な疑問だった。

 ノナとリス獣人は困ったような顔をして見合っていると、リス獣人はトーマに突然抱きしめられた。


「え……!?と、トーマ君……!?」


「やっぱりモエさんだ……。生きてて良かった……」


 トーマに姿形が変わってしまったことなど気にせず、無事に生きていた事を肌で実感するのであった。

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