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第63話 見せしめ

 ポチおは牢の中に入り、どかっと座る。


「あんた、魔障石で作ったやつ使ったのか?」


「は、はい……」


「なら、話が早い。明日、それを使って戦ってもらう。ただ、無傷で終われると思わないことだな」


 ポチおから脅されたような言い方のせいで、トーマは胸の真ん中辺りがキュッと萎んで冷たくなった気がした。

 対戦相手がどんな獣人なのか気になったが、トーマは少しだけ自信があった。

 それはやはり碧いメモリーを持っている事と、アバターなら少しは戦える事。

 テトラメモリーも【風】以外は持っている。

 これだけのメモリーを持っていれば一人や二人は倒せるかもしれない、と希望を持っていた。


「楽しみは明日にとっておきな」


「え――」


 トーマは再び寝かしつけられたのである。

 ポチおも背伸びをして牢から出て、再び見張りのために座るのであった。


 §


 トーマが目を覚ますと広い土地であり、運動場のようなものの真ん中に転がっていた。

 周囲を見渡すと十メートルはある高い壁の上には獣人たちがトーマを見下ろしており、客席であるとわかる。


「もしかして……コロシアム……?」


「なんじゃ?ころしあむとは?」


「え……!?キツネのお姉さん……?」


「かかっ!聴いたか、ぼるふ!わしはまだ『お姉さん』のようじゃ!お主は分かっておるの!」


「ぼそっ……(もう千年はここにいるんだぞ?)」


「ええっ!?」


『ぼるふ』と呼ばれたオオカミがトーマにコソッと真実を告げ、それに驚愕する。

 それを面白く無いと思ったふくは『ぼるふ』の尻尾を軽く燃やす。

 慌てて消火しに飛び出た『ぼるふ』を他所に、ふくはトーマの前に立ち、腕を組む。

 千年の時を経ているとは思えない程の美麗な姿に見惚れているとふくは咳払いをする。


「む、お主にはこれからわしの国者と戦ってもらうのじゃ。それも、ぼるふの軍の一番強いやつじゃ。かれんよ、来るのじゃ」


 カレンと呼ばれ、出てきたのは全身黒色の牝馬だった。

 兜を脇に抱え、携えた剣は非常に綺麗な装飾が施され、トーマの二倍近くの身長あり、絶望する。


「で、でけぇ……!?」


「でかいだけじゃないよ?一応、ここでは最強の剣士をさせてもらっているもの。キミこそ大丈夫?ニンゲンは脆いから壊さないようにするけどさ……」


「俺は……思っているより戦えるぞ……!トランス・オン!」


 トーマがアバター体へと換装するとカレンとふくの目つきが変わる。

 二人とも楽しそうな表情を浮かべ、目を爛々と輝かせる。


「不思議な物を使うのじゃの。じゃが、ただ獣人になっただけでは、かれんを倒すのは容易ではないのじゃ」


「大丈夫です。ミッションでドラゴンも精霊も、ベヒーモスだって倒しましたから……!」


「ほう……!みっしょんとやらは何かはわからぬが、トカゲや妖、果ては暴牛までも屠ったか。ならばかれんの本気を受けても死ぬことは無いであろうの!」


 トーマが今まで倒してきた怪物たちの種族を出したが、どうやら逆効果だったようで、状況は好転することはなかった。

 今回は【杭】と【射】のセットが無いため、パイルバンカーは使うことが出来ない。

 トーマは三本のテトラメモリーを挿入し、カレンに向かって構える。

 トーマの装甲の色味が変わっていく様子を見て、腰に下げられた剣を抜く。

 刀身が青く、宝石のように輝く。

 剣を構えた瞬間、観客の声が途絶え、時が止まったような感覚に陥る。


「近衛師団師団長:カレン。我が主人ヴォルフ様の納める世界を守る為、地上より侵略者を討伐します……!」


 そう告げた瞬間、目にも止まらぬ速さでトーマの懐に接近していた。

 トーマの危機感知が反応するよりも速く、後退しようと足に力を入れた瞬間、未だかつて無い寒気に襲われる。


(逃げたら死ぬ……!?どうすれば……!)


 逃げ場を失ったトーマには残された道はただ一つ。

 カレンの攻撃を止めるために怪物たちを倒してきた蹴りを腹部に与える。

 トーマの装甲とカレンの鎧がぶつかり合い、雷鳴にも似た金属音が響き渡る。

 カレンは微動だにせず、衝撃波がカレンの背後の壁を襲い、亀裂が入る。

 彼女の鎧は変形することなく、そして、彼女自身も強靭な肉体で受け止めていた。

 カレンは楽しそうな表情をしており、目が合ったトーマに話しかける。

 

「正解♡後ろに下がったら、キミの胴体真っ二つだったよ♪攻撃も悪く無い。確かにドラゴンは倒せるだろうけれど、ベヒーモスを倒すには無理かな?まだ力を隠しているんでしょ?」


 トーマの切り札も完全に明かされてしまい、追い詰められる。

 それでも距離を保ち、両手を前に出す。


「『雄大な湿地よ、彼の者の足の自由を奪い取れ!』」


「わっ!魔法まで使えるようになっているんだ!新人類の技術は凄いねっ!」


 コロシアムの土の一部が泥状になり、カレンの太もものあたりまで沼地に埋め込んだ。

 それを確認したトーマは飛び上がり、【土】と【火】のダブルエレメンタルでの攻撃を準備する。


「もう、自由に動けないだろ!特大の攻撃をお見舞いして――」


 次の瞬間、トーマの装甲が一撃で吹き飛んだ。

 あまりの衝撃で全身が強張り、自由が効かず、そのまま地面に落下する。

 痛みで意識が遠のく中、驚きの光景を目の当たりにする。

 カレンは沼地から何事もなく脱出し、彼女の持つ剣の周りに二本の光の帯が現れていた。

 彼女が剣を振うとその二本の光の帯は沼地を吹き飛ばし、元の通りとはいかないが、泥を取り払い、土へと戻した。

 トーマは「無事に終われると思うな」の意味を初めて理解した。

 

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